第4話 攻略許可階層に色をつけてもらえそうだ

 マナボールを浮かべた掌を、ネズミ—マウスに向ける。

 そして、マナボールが前に飛んでいくのをイメージすると……マナボールは、ネズミ—マウスに向かって一直線に飛んでいった。


 相川らず亀のような速度で移動するネズミ—マウスは、マナボールの存在に気づくことすらできずに直撃を食らった。

 数秒後……ネズミ—マウスは、魔石に変化した。


「……倒せました」


 工藤さんの言う通り、MP10分のマナボールで事足りたな。

 ちょうど最大値分のMPをつぎ込んだわけだが、しんどさは全く感じない。

 ちゃんとスキルが働いて、MPが即座に回復したみたいだ。

 などと思いつつ俺は、魔石を拾い上げて工藤さんに見せた。


「な……」


 驚いたような表情で、しばし固まる工藤さん。

 しばらくすると……工藤さんは心配そうに、こう聞いてきた。


「お前……体調大丈夫か? 今の、全力の一撃だったはずだが……」


 ……やはり、最初に気になるのはそこか。


「大丈夫です。MPはもう、完全に回復しました」


 工藤さんの心配を払拭すべく、俺はそう答えた。


「……は!? この一瞬で……MPが完全回復!?」


 すると工藤さんは、今度は信じられないと言わんばかりに、俺を二度見しながらそう言った。

 そして……


「……なるほど、スキル持ちか。一体どんなスキルを入手したら、MPが瞬時に回復するのか分かんねえが……お前、とんでもねえな」


 俺がスキル持ちだと断定し、納得したようなしてないような様子でそう続けた。



 とりあえず……最低限、俺のスキルが現場で通用することははっきりしたな。

 武器になるものは持ってき忘れたものの、他の参加者と遜色ないくらいの結果は出せたし、無事許可証は貰えそうだ。


 ……説明も実戦体験も終わったし、あとはダンジョンを出て許可証を発行してもらうだけか。

 そう思い、俺は工藤さんが案内終了を告げるのを待った。



 だが……工藤さんの口から出た言葉は、思っていたのと全く違うものだった。


「古谷。良かったら……もう一体、別の魔物も倒してみないか?」


 なぜか工藤さんは、俺にそんな提案を持ちかけてきたのだ。


「……もう一体? なぜですか?」


 理由がよく分からないので、そう聞き返してみる。


「お前に何階層の攻略許可証を出すか、決めるためだ」


 すると工藤さんは、そう理由を説明した。


「みんな知っての通り……『案内人』には、初心者に何階層までの攻略を許可するか決める仕事もある。とはいえ普通は、初心者の実力が4階層以降で通用することはないので、俺の仕事は実質3階層までの許可証を出すことだ。だが……4階層以降を攻略できる見込みのある者がいれば、話が変わってくる。そういう場合は、実力をもっと正確に知るために別の魔物と戦闘してもらうんだよ」


 そして、俺が尚もピンと来ていないのを察してか……工藤さんは、そう説明を付け加えてくれた。


 これって……俺、さっきの魔法を見せたことで期待されてるって感じか?

 なら……俺としても、どこまで通用するか試してみたいな。


「お願いします」


 工藤さんの目的が分かった俺はそう答えた。



「じゃあ……早速始めるぞ」


 工藤さんはそう言ったかと思うと……ネズミ—マウスの魔石より一回り大きい石を、ポケットから取り出した。


「これは4階層の魔物から採れる魔石だ。今から俺が、俺のスキルでコイツに『強制リスポーン』をかける。お前には、コイツと戦ってもらおう」


 そして工藤さんは、魔石に「強制リスポーン」とやらをかけ、魔石を人のいない方へ放った。


「4階層の魔物はレッサーロックゴーレムと言ってな、硬いが動きは鈍い。比較的安全なはずだから、安心して攻撃してみてくれ」


 などと説明を受けているうちに……魔石はみるみる肥大化し、石でできた人間みたいな姿になった。

 おそらくあれが、レッサーロックゴーレムなのだろう。


 俺は前に出ると……早速、そいつを攻撃してみることにした。



 とりあえず……4階層の魔物だし、さっきの4倍の威力のマナボールを放つか。

 そう思ったが……俺はその構築途中で、違和感を感じた。

 マナボールにMP10分をつぎ込んだあたりで。全くマナボールに魔力を注げなくなってしまったのだ。


 ……魔力が無限とはいえ、一発一発の技の威力の上限はMP最大値までに限定される感じか。

 よく考えれば、ステータスのMP表記が単純に「∞」ではなく「∞/10」なのも、「限界まで使っても即回復する」って意味でそうなってるってとこか。


 何にせよ、俺はMP10のマナボールだけであの魔物をどうにかしないといけないわけだな。

 とりあえず俺は、そのマナボールを放ちつつ……どうするか考えた。


 考えは……一瞬でまとまった。

 一発どデカいのを放てないなら、シンプルにグミ撃ちするまでだ。

 今の俺にできることは、それしかないしな。

 どこぞのM字ハゲのごとく、マナボールの連撃を食らわせてやるとしよう。

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