にんまりガール
「ごめんね2人とも…。私のせいで。」
あの後、私たちは美恵子ちゃんに事情聴取を受け、みっちりお説教を受けた。
「確かにまーちゃんが変顔したのは悪い!けど…」
美澪にビシッと悪いと言われ固まっていると…。
「確かに真紀が悪いけれど、私たちが飽きてしまっていたのは事実。あなたは私たちを楽しませようとしてくれていた。」
と言って2人で顔を見合せた直後、
「「だから悪くないー!!」」
拍子抜けだった。多分阿呆みたいな顔をしていたと思う。状況が把握出来ずにいると…。
「ていうかそもそも、みれいたちがこの位でまーちゃんのとこ責めるわけないじゃん〜!」
むしろそっちの方が酷いよ〜!と頬を膨らませて美澪が肩を指でつついてくる。なんだ、この可愛い生き物は。
「むしろ真紀の方が大変そうだったもの。」
椿が同情するような目で見てくる。
「深瀬ー!!あんたが元凶ね!反省文よっ!!…だっけ?結局何枚書いたのよ…。」
「5枚…?」
「うわぁ…美恵子ちゃんきっっつ。」
いや…我ながらよく5枚なんて反省の文を書いたもんだ。……まぁ同じようなことしか書いてないけど。
「そういえばつーちゃんむしろびっくりされてたよねぇ…。」
「先生の顔、面白かったな。桐谷さんあなたのような優秀な人が…信じられないわ!だってさ。ほんと椿、可哀想だよな。」
椿は、成績優秀、眉目秀麗…いわゆる模範生徒ってやつだ。腰まで伸びた長い黒髪に、色白で滑らかな肌…細い身体、そして美しい顔。完璧な美女である。ほんとに男だったら…いや女で惚れるなこれ。
「ほんとにああいうのくだらないわよね。大人の勝手なイメージを押し付けてほんとに哀れ。むしろ同情心すら感じたわ。」
椿が呆れたように笑みを零す。ほんとに大人ってやつは…いや人間は、イメージだけで人を決めつける。こいつはそれを顕著に受けるのだろう。優秀な人は優秀なりに大変らしい。
「まだそれならいいよ。みれいなんて、またあなたですか!?なんて言われたんだよ?ほんとに失礼しちゃう。」
美澪は生まれつき髪の色素が薄い。だから染めてる?なんて先生に言われることもしばしばで、本当に面倒くさいのだと思う。まぁネイルしてたり、提出物を出さない…なんてこともしばしばだからそれはしょうがないとして…。
「この前なんて、私頭髪申請出してるのに、髪染めたでしょ。黒染めしてきなさいとか言われたんだよ?メイクにしたって注意される理由分からないよ。」
黒染めしたら校則も糞もないだろうに…。学校…いやこの社会は勝手だ。人と違うものを決定的に排除しようとする。個性を認めないのだ。メイクにしたって、可愛くなろうと、綺麗になろうとしている努力の証なのに否定してくる。しかも、社会人になったらそれが次はマナーになるのに…。
「まぁこんなどーでもいい話はやめてさ!なんか違うこと話そうよ。」
場の空気が暗くなってきたから話を変えよう。うん。どんよりするのは良くない!!!
「そうだねぇ〜…あ!!そういえばつーちゃん!」
何かを思い出したのか、急に美澪が椿の方に首を向ける。
「ん?どうしたの?美澪。」
心当たりが特にないのか、不思議なものを見る様子で問いかけを返す。
「つーちゃん!夏祭りの後どうなったの!?」
夏祭り…?あー8月の初めの頃にあったやつか。さて…。あの時何かあっただろうか。んー…変わったこと……夏祭り。確か椿と美澪と行ったんだったな。そうそう、他にも誰かいたな…。珍しく椿が男子も誘おうとか言い出して…そうそう男女の比率がおかしいって言ってクラスの奴らを誘ったんだった。確かそいつの名前は…
「佐々木 裕也」
思い出してうっかり口に出してしまって、椿の方を見ると、石になったものがそこにいた。しばらくすると、椿の顔が茹でダコのように真っ赤になっていった。
「なんで覚えているのよ。」
ショート寸前だ。こいつ。
「てことは!もしかして??」
美澪が大きな瞳をきらきらと輝かせている。私も思わず口元が緩んでしまう。
椿はしばらく真っ赤になって俯くとコクリ…と頷いた後…
「お付き合いすることになったわ。」
消えるような声でそう呟いた。そんな気はしてたけど…まじか。きっとそれを聞いた瞬間の私は、あほ面をしていたと思う。
「つーちゃんおめでとう〜!!」
パタパタと足と手をひよこのように動かす美澪は、心から椿を祝福して嬉しそうで、何より可愛らしかった。
「椿…とうとうあんたが…。」
私が泣き真似をしてこんなことを言ってやると、椿は顔を赤くしたまま慌てながら
「それって誰目線よ。」
とツッコミを入れてきた。おー…普段の椿に戻ってきたぞ。
「まさか、椿があんな感じの人と付き合うなんてなぁ…。どっちから告ったの?」
友だちが付き合い始めたとなったら、必ず聞くだろう質問を投げかけてやると、椿は何かを食らったような顔になった。
「……からよ。」
肝心のどちらかが聞こえない…。まぁここまで来れば、私は察しが悪い方では無いので察しがつくが、からかってやろうという気持ちを込めて、え?というジェスチャーをしてやると
「私からよ!」
おう…。こいつがこんなに大きな声を出したことはあまりないのに…レアだな。…ん?椿から?ちょっと待て?椿から?聞き間違いかもしれない…もう一度と思った瞬間、美澪が身を乗り出して
「えー!つーちゃんから!?」
代わりに聞いてくれた。いや、聞いてくれたと言うよりは驚きに近いケド。前言撤回、私は察しが良い方ではないようだ。椿が告るなんて相当じゃないか?これ。
佐々木裕也は、一言でまとめるとチャラ男。顔はカッコイイ系と言うよりはカワイイ系でファンクラブができているほどだ。部活は、バスケ部。背は、椿と同じくらいだろうか…席が隣で話したことはあるが、はっきり言って馬鹿だ。日本はヨーロッパにあると思っていたらしい。よく高校に受かったな…。
「正確に言うと、前に彼が告白してきたことがあったの。確か麻紀と美澪には相談したはずなんだけど…?」
椿が照れくさそうに語り始める。あー…確かにそんなこと聞いたときあった気がする。そのときは、ここまで真っ赤な茹でダコにはなってなかった気がする。
「うんうん。あったあった!つーちゃんったら、タイプじゃないとか言い出すんだもん。」
「確かにあれは椿のタイプじゃねぇよな。いかにもチャラ男!って感じ。」
たしかこやつのタイプは、自分より10センチくらい背が高くて、勉強ができるインテリ系だったはずだ。…ってなんだこれは。
「え?タイプじゃなかったんならなんで椿、告ったの?しかも一旦フッたんだよね?」
状況が把握出来ず聞いてしまった。美澪が横でウンウンと頷いている。そうすると椿はしばらく黙ってから話し始めた。
「たしかに前、告られた時はお断りしたの。ほら、彼、軽く見えるでしょ?」
うん。軽そう。すぐ流されるし、飛ばされそう。
「だから、断ったわ。でも彼…」
椿が微笑んでいる。風が彼女を引き立てるように吹き込む。美しい姿に思わず惹き込まれてしまった…。椿の声が風の音に重なる。
椿が言うには、佐々木は彼女にフラれてもなお告白を続けてきたらしい。君しかいないんだ。確かに俺はチャラいけど、椿しか見ないから。なんて、くさい言葉を言われまくったらしい。「別に嫌ではなかったけど言われているこっちが恥ずかしかったわ。」と椿は言っていた。そしてある日、下校時刻が過ぎているというのに、体育館の電気がつきっぱなしになっていて、何かと思って見に行ってみると…
「そこには、彼…裕也がいたの。他の人は帰ったのか、彼一人だった。顔を真っ赤にしながら呼吸を荒らげて何度も、何度もシュートをしていた。…悔しいけど、とてもかっこいいと思ってしまったの。」
悔しそうな、でも嬉しそうな笑みを彼女は零していた。
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