第27話 夕暮れに買い物人形

 商店街に戻ると乱雑とした音が戻ってきた。人形は次々と行きたい店に入り、品物を顔を輝かせてみていた。空は赤く染まり、少し冷たくなった風が入り込んできた。


 青年は買い物に付き合いながら、どう切り出すべきか迷っていた。人形から情報を聞き出したいが、なるべく今の雰囲気を保ちたかった。


「めぼしいお品物が多くて困りますわ」


「たくさん見ているからね、一つだけってのは難しかったかな」


「どうにかしますわ」


 人形は豚の貯金箱を手に持ちながら真剣な表情で悩んでいる。雑貨屋では実に多くのものが溢れており、このお店だけでも30分はうろうろしている。

 どうしたものかと腕組みをして、目を閉じて考えている人形。青年が店内のものを手に取り眺めていると、人形はぽつりと口を開いた。


「それですわ」


「ん?決まった」


「ハイ。やまとさまが持っているその本ですわ」


「これ?人物画だよ」


 青年が持っていた本は何人もの著名な画家が描いた作品をまとめた人物画だった。


「多分、京都じゃなくても買えるよ」


「京都の特産物は最後の日に買いますわ。今はその本が気になりますの」


 本の内容を確かめずに、人形はそれしかないと胸を張って決めた。何とも呆気ない幕切れで、青年はなにが買う気にさせたのだろうと困惑していた。買った商品を人形に渡すと、急に落ち着いた様子で一礼してからお礼を言った。


 再び街道に戻ると東の空は夜の青さに変わりつつあった。


 青年はタクシーを呼ぶ前に、人形の超能力について聞こうと考えた。商店街を抜けたところにベンチがあったのでそこで一休みしようと提案した。


 道路に続く歩道は車四台は通れる広さがありながら、青年ら以外には誰もいなかった。タイルが詰められた道をあざやかな木が挟み込んでいる。もしかしたら公園の跡地なのかもしれない。


「エマちゃん、君のことで聞きたいことがあるんだけど、少しいいかな」


「はい」


 青年は落ち着いていた。謎だったことを聞くだけだと、特にやましさはなかった。しかしこの問答が結局、二人の仲を決定づけるものになってしまう。

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