09.とある冒険者達の話
とある町の
金髪に緑眼、身長からして20代前後程。かなり筋肉質で、腰に装飾の無い無骨なデザインの長剣をぶら下げている。
男は何かを探すように指を動かす。
しかし目的の物がなかったのか、しばらくして手を下ろす。
「おーい、ラウルさーん?」
男は受付の男に叫ぶ。
「おう?どうした、ユウ坊?」
色黒のガタイのいい、スキンヘッドの男が振り向く。顔に深い傷があり、かつて相当な実力者であったことがわかる。
「ここにあった、
「あぁ、あのE
「まじですかー…。あれ依頼料高かったから今度受ようと思ってたんだけどなー」
「ガハハ!早いもん勝ちだ!キープしとかないお前が悪い!」
「そ、そりゃないですよー…」
「ガハハハハ!…しっかし、あいつら遅いなぁ…。確か1週間ぐらい前だったと思うんだが…」
「…そりゃ流石に遅くないですか?ここからエリフィスまで、ゆったり歩いても1日ですよ?」
「そうなんだが…もしやあいつら、
「えぇ!?ラウルさん、奴らの縄張りの範囲教えてないんですか!?」
「バカが!俺がそんなヘマするはずねぇだろ!!」
「で、ですよね…すいません」
「奴らは姿が見える限り、どこまでも追ってくる。この顔の傷も、俺が若い頃襲われた跡だ。奴らの恐ろしさはよく知っている」
「あの『剛腕』のラウルに傷つけるって…。さすがはC
「それにあのパーティには1人だけ、なりたての奴がいた。足を引っ張ってないといいんだが…」
_ _ _ _ _ _
「これで9本…!」
茶髪の女性が紅い花に手を伸ばす。
それを袋にしまうと、疲れた様子で木にもたれかかり、手に着けていた革製の手袋を取る。
「はー…疲れた」
「お、お疲れ様です!」
そこに金髪の少女が駆け足で近寄り、水の入った水筒を手渡す。
「お、ありがと」
茶髪の女性は少女に礼を言うと水筒を受け取る。
「ウェルちゃんは
「は、はい!」
「あはは、もっと肩の力抜いた方がいいよ。そんなに気張ってたら、いざと言う時緊張して上手く動けないよ?」
「え、わ、分かりました!」
「ほんとにわかってるっすか?」
「わっ!?」
ウェルと呼ばれた少女の背後から、栗髪の青年がひょこっと顔を出す。
「か、カカムさん!?いいいきなり後ろから顔を出さないでくださいよ!?」
「はは、ごめんごめんっす。ウェルちゃんの反応が可愛いからつい☆」
「そう言って、毎回毎回驚かさないでください!?」
「カカム、そっちは何本あった?」
「6本っすね。イリナさん達は?」
「こっちは2人合わせて9本ね」
「お、結構ありましたねー」
「でしょー?ウェルちゃんほんとに見つけるの上手いだよー!」
「うぇ!?」
そう言ってイリナと呼ばれた女性はウェルに抱きつき頭を撫で回す。
ウェルはいきなりのことに驚き固まってしまう。
「い、いや私は皆さんに比べたらまだまだ…」
「いやいや、初
「そうだよー?カカムなんて初採取の時1本も取れなかっ「ちょっ、イリナさぁん!?それは言わないでって約束したじゃないっすかぁ!?」
「なんのことやら?」
「う、裏切りものぉ!!」
「あ、あはは…」
イリナに抱きかかえられながら、ウェルは愛想笑いを浮かべる。
初めこそ二人の止めに入ったものの、何日もこのやり取りに付き合ってる内に内心うんざりしていた。
すると、
「おいおい…2人ともこんな森の中でなに騒いでるんだ?」
「仲良くするのはいいけど程々にねー」
森の奥から、大柄の大斧を背負った黒髪の男性と緑のローブを羽織った耳長の青年が現れる。
「あ、ダルニスとメドさん」
「ほい、あっちで見つけた14本だよー」
「え?あ、おっとっと!」
メドと呼ばれた耳長の青年がポイッと袋を投げ、それをカカムが受け取る。
「そっちは何本見つけたー?」
「えっと、15本です!」
「2つ合わせて29…昨日までのと合わせて62本か」
「あと…38本?だるいっすねー」
「…どこかの誰かさんが
「えーと…、ナンノコトヤラ…」
イリナの視線から逃れるようにカカムは目を逸らす。
「まぁまぁ。もう終わったことなんだし、掘り返しても仕方ないよー。それより日もかなり沈んできたし、そろそろ寝る場所探そうかー」
「あれ?もう寝る準備っすか?」
「先程こっちに来る途中で
「それで
「かしこまりー」
「了解っす」
「わかりました!」
各々返事をして、移動する準備を整える。
ふと、ウェルが後ろを振り向く。
「ん?ウェルちゃんどうしたの?」
「あ、いえ…!なにかが横切った気がして…」
「そうなの?メドさーん!近くになんかいるー?」
「んー?特に変な気配とかはしないねー」
「ってさ。見間違えじゃない?」
「そう…ですかね?」
「ウェルちゃんがピンチになったら、俺が真っ先に助けるから安心するっすよ☆」
「真っ先に逃げるの間違いでしょ」
「い、いや…そんなことないっすよー?」
「嘘つけ」
「ちょ…リーダーまで!?」
首を傾げながらも、準備を終え進み始めた仲間の方へ駆け出す。
『…ふーん?やっぱり神官は気づきやすいのかなぁ?』
ウェルが見ていた木の影から、
それは生物と言うにはあまりにも不定形で、実体があるのかすらわからない黒い靄のよう。それでいて吹く風には一切靡かず、一箇所にゆらゆらと留まっている。
目は鼻などの感覚器官は見当たらず、落書きのような白い牙が剥き出しの口が、切り取った画像のように黒い靄に張り付いている。
靄に浮かぶ口が、ひとりでに動き出す。
『まぁ、今更気づいたところで、この後の結末に大きな違いはないだけどねぇ』
口角を上げ、白く歪な口でニタリと微笑む。
子供が虫を捕まえた時のような無邪気で、それでいて命をなんとも思っていないとても残酷な笑顔。
『さぁーて、僕の可愛い
黒い靄は、ふわりふわりと揺れる。
それはまるでこれから起こる
靄はひらりはらりと舞い踊り、いつの間にかひたひたと迫り来る夜の足跡に紛れて消えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます