08.実食!野生飯
(はぁ…、酷い目にあった…)
『それはこっちのセリフだよー!』
(あはは…ごめんごめん)
あの後、叫びながらも『
しかし日は暮れ、あちらこちらから虫の声が聞こえてくる。長時間逃げ惑っていたせいで、拠点への帰り道もわからない。
いくら猫で多少夜目が効くからといって、傷付いた足で日が暮れてから行動するのは危険だ。
今日はここで野宿にするとしよう。
そうと決まればさっそく腹ごしらえだ。
『
詳しいやり方は知らないので、適当に腹を裂いて内臓を取り出す。
酷い血の匂いに吐き気が込み上げてくる。
臓物とかは漫画やスプラッタ映画で見慣れているが、さすがにこの臭いはキツい。
ちゃんと血抜きすればよかった…。
この体では火は使えない。
ので、今回は生で頂く。
内臓の生食はさすがに気が引けるので毛皮と一緒に土に埋める。
(んじゃさっそく、いただきます!)
ガブ!
もぐもぐ…
うーん…固い。
それに生臭いし獣臭い。脂身は少ないし筋も多い。
噛んでも噛んでも味は出ないし鉄臭い。
とても食えたもんじゃない。
しかしこれも大事なタンパク質。残さず食べないとこいつに失礼だ。
ブチッ
モニュモニュ
ガツガツ
グチャッ
グムグム
ゴクン
ペロペロ
腕1本分食べたが、猫の体ではもう腹がいっぱいらしい。
残りは『
(……喉乾いた)
さすがに生肉、口の中が脂と血でギトギトする。近くに川があるからそこで水飲もう。
(…ん?)
移動しようとするが、何故か悪魔が離れたところで口を押えている。
(どうした?気分でも悪いの?)
『うぅ……だって、目の前で生物がぐちょぐちょになる様子なんて、見てるだけで気分悪くなるよ……』
(そ、そう?)
『うげぇ……』
そうゆうものなのだろうか…。
もしかしたら、スプラッタ物にある程度慣れている俺の方が不自然なのか?
しばらくして落ち着いた悪魔と共に、近くの小川に向かう。途中の森は薄暗く、草むらから虫の鳴き声が聞こえてくる。
(そういえば悪魔)
『ん?なーに?』
(お前ってなんて呼んだらいい?)
出会ってからずっと「悪魔」と言ってきたが、これは個人を表す物ではなく、「悪魔」と言う種族を指す言葉だ。
もし他の悪魔に会った時にややこしくなってしまうかもしれない。
『僕のことはなんて呼んでもいいよー?』
(いや、せっかくなら名前で呼んだ方がいいかと…)
『んー…そんな事言われても……』
悪魔はそう言って少し困ったような顔でポリポリと掻く。
(…なんか不都合でもあるのか?)
『いや、そんな事は無いんだけど……悪魔ってのは基本的に個体を表す名称ってのはないんだよ』
(そうなの?)
『うん。そもそも悪魔の間では言葉なんて時代遅れの方法が無くても意思疎通ができるからね。今君と話しているみたいに』
(…なるほど?)
『だから、わざわざ個体を識別する名称は持ってないことが多いんだ』
(へぇ……ん?じゃあ「烏の悪魔」っていう名称は?)
『あぁ、あれは僕が魔王様に仕える時につけてもらった名前だよ。「そうしないと誰が誰だかわかんない」って言ってねー』
(そ、そうなんだ)
結構人間臭いな魔王様。前聞いた話だと、その気になったら全世界を支配できる程のバケモノって感じだったんだけど、一気に親近感が湧いた。
(それじゃあ、「烏」って呼ぶのは…)
『それはダメ!』
(え、えぇ?)
『それは魔王様との契約みたいだものだから、いくらご主人でもダメ!』
(そ、そう……)
よく分からないがそういうことらしい。
しかしそうなるとなんて呼べば……。
うーん……そうだ!
(“ラウム”ってのはどう?)
ラウムは俺が前の世界でハマってたゲーム、「バベル・オンライン」のダンジョン「バベルの神塔」444階層のボスモンスターだ。
高威力の連続広範囲攻撃に、味方のバフを奪うスキル『窃盗』、残り体力2分の1で攻撃パターンがガラリと変わる。その凶悪な性能から「黒い悪魔」と呼ばれていた。
確か元ネタはどこかの烏の姿をした悪魔だった…と思う。
『ラウ厶か……』
(気に入らない?)
『いや、気に入った!いい名前だ!』
(そうか…よかった)
そんな事しているうちに川に着く。
星明かりしかないが、それでも割と辺りの様子がはっきり見える。これも猫の目のお陰だろう。
小川に口をつけ、ぴちゃぴちゃと水を舐める。
澄んだ水が血や脂ごと喉の奥へ流れていく。
(……おいしい…)
生まれて初めて水を美味しいと思った。今日は一日中動き回ったおかげで、いつも以上に喉が渇いていたせいなのかもしれない。
干からびた体に水の一滴一滴がじんわりと広がる。
「ぷはぁ……」
ついつい情けない声が漏れる。
まさか猫になってから水の美味しさに気づくとは…人生何があるか分からないな。
口についた水を振り払い、立ち上がろうとする。
その時だった
「ーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
大地を震わせるよな咆哮が、夜の森中に響き渡る。鳴り響く怒号が、全身の毛を逆撫でる。
聞き覚えがあるこの叫び声。
忘れもしない、最初に出会ったあの四つ目の熊の鳴き声だ。
『これは…
「…ーー!!」
それともうひとつ、別の声が聞こえる。
人の声だ。よく聞き取れないが、何となく切羽詰まっている様な感じがする。
(ラウム、いくぞ!)
『え?あ、あぁ、うん!』
考えるより先に黒剣を咥え、叫び声の聞こえてきた暗い森へ走り出す。
夜はまだまだ終わらない。
_ _ _ _ _ _
夜の森を、1人の少女が走る。
金髪に青眼、年齢は10代程だろうか。輝くような白いローブは、跳ねた土でところどころ汚れてしまっている。
「はぁ…はぁ…んぐぅっ…あっ…!」
木の根に足を引っかけ体制を崩し、白いローブが跳ねた土で黒く染まる。
「っ…!!…!」
何とか起き上がろうとするが、ズキリとした痛みに涙が毀れる。
見ると足からは血が溢れ出ている。転んだ拍子に木の枝が刺さってしまったようだ。
「ぐうっ…うぅ…!」
流した涙を土の着いた手で顔を拭う。土が涙に溶け、泥となって顔を汚す。
しかし少女はそれを気に停めず立ち上がり、なおも走り続ける。
「早く……しないと……!もっと、早く…!!」
血を森に染み込ませながら、やがてその姿は夜闇の帳の中に消えていった。
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