07.新技獲得☆



さーて、│赤歯狼アカバオオカミを狩った訳なんだけど…


(……デカイな…)


赤歯狼アカバオオカミは俺の体長の2倍3倍近くある。運ぼうとしたが、足を怪我した俺には重すぎて2mほどしか動かなかった。

拠点まで運ぶ頃には日が暮れてしまう…。


はてさて、どうしようか…。


『ねーねーご主人ー!さっきから何してるのー?』

(お、悪魔。実はな、こいつを拠点まで運びたいんだが、俺の力では体格差がありすぎて全然動かせないんだよ)

『へー、そうなんだ…ニヤニヤ』

(ん?どうした?)


悪魔は何かを思いついたとばかりにニヤニヤし始める。

…なんかムカつく。


『憑魔術は"悪魔の力そのもの"ってのは前教えたよね?』

(そうだな。それで悪魔が強くなればなるほど、憑魔術も強くなったり、新しい憑魔術を使えるようになったりするんだったよな)

『そう!それでね、実はさっきの戦いで、ご主人の「死にたくない!」っていう欲望を沢山貰った結果……』

(……結果?)

『なんと!悪魔の力が少しだけど戻り!新しい憑魔術が使えるようになりました!!』

(まじか!)

『どんな憑魔術かは説明するよりやってみる方が早いよね。早速使ってみよー!』

(おー!)



新しく習得した憑魔術の名は「│女神の盗袋ラウェルナ」。自分の周囲に、特定の空間へと通じる"門"を出現させる事が出来る憑魔術だ。


門は真っ黒で円形、大きさはある程度調節でき最大直径1mほど。自分の周囲1、2m程に開くことが出来た。

空間内部は時間や重力が無く、中に入れたものは劣化せず宙を漂っている。試しに│赤歯狼アカバオオカミの亡骸を入れてみたが、あれ一体で空間の半分ほど埋まってしまった。大人1人入れるのが限界だろう。

憑魔術が強化されれば、門を開ける距離と空間が広くなるんだそう。


これはかなり使える。俺は今は猫、身体が小さくあまり多くのものを運ぶことが出来ない。しかしこの憑魔術があればそれをカバーできる。

今の俺にピッタリだ。


ただ、門を開く感覚がかなり独特で、慣れないと難しい。どんな時でもすぐに開けるよう、歩きながら練習する。



(なぁ、悪魔。こいつ名前なんて言うんだ?)


道中、初日に見つけたあの紫のカエルがいたので悪魔に聞く。


『あれはねー、紫矢毒蛙ムラサキヤドクガエルっていうカエルだよ。めっちゃ強い神経毒持ってて、1匹で人族ヒュームの大人20人は殺せるよー。…間違っても食べちゃダメだよ!?』

(毒があるって言われて食う訳ねぇだろ!?)


そんなやばいカエルだったとは…。しかしこの毒、なにかに使えるかもしれない。


直接触らないよう気をつけながら、『女神の盗袋ラウェルナ』で捕獲する。

その調子で、気になったもの食料になりそうなものをどんどん『女神の盗袋ラウェルナ』に入れていく。


(この木の実は?)

『それは撥牙ハツガっていう木の実だよ。強い衝撃を与えると破裂して、鋭く尖った中の種を半径5トルメ(※1トルメ=約1m)に撒き散らすんだ!』

(…あの赤い花は?)

『それは紅気触クレナイカブレ。草の汁に触るとかぶれて、血が出るほど掻かないと痒みが収まらなくなるよ!』

(……そこの変な形のキノコは?)

『それは狂々茸クルクルダケ。とても強い幻覚作用があるキノコで、ひと口食べると幻覚、幻聴のオンパレードで二度と人の言葉を喋ることはできなくなるよ!』

(この森ろくなもんがねぇな!?)


俺、よくこの森走り回って生きて来れたな…。


ふと、枝の上に1匹のクワガタムシがいるのを見つける。パッと見はノコギリクワガタのようだが全身に妙な模様があり、微妙に光を放っている。

元の世界じゃあ絶対にありえない生物だ。


(あれは?)

『んーどれどれ~?』


悪魔はクワガタムシをじっと見たあと、ぷるぷる首を振る。


『なにあの虫?僕も初めて見たよ』

(そうか…)


もしかしたら新種…?

とりあえず気づかれないようそっと近づき捕まえようとする。


しかし突如、


《███████████████████》


ブ ブ ブ ブ ブ ブ !!



クワガタが謎の声?をあげながら飛んできた。


(うわぁぁぁあああ!!?)

『えええええええええ!!?』


飛びかかっくるクワガタムシに、嫌な記憶がフラッシュバックする。



蒸し暑い、ジメジメとした夏の日。


数人に捕まえられた腕、無理やり開けられる口。拒んでも叫んでも、周りは笑って見て見ぬふり。


こじ開けられた口に、迫るセミの亡骸。まだ息のあるセミの鳴き声が、脳に響き渡る。


口に広がる、虫の噛む感触。


バリッ


バリッ


バリッ


俺を見てさらに笑う奴ら。

蔑んだ目で見つめる奴ら。

見て見ぬふりをする奴ら。

まだ息のあるセミの食感。



「に゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!??(うわああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁ!!!!????)」


トラウマが蘇り、軽くパニック状態に陥る。


『ご、ご主人!?お、おお落ち着いて!?』

「に゛ゃ゛ああああああああぁぁぁ(ああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁ)」

《██████████████████》

『ひゃああ!!??こっち来ないでぇ!!!!?』

「に゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛(あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛)」

『ご主人うるさい!!!!』


クワガタと猫と悪魔の叫び声は、日が落ちるまで続いたのだった。



_ _ _ _ _ _



ふと、目が覚める。


空を見るとまだ薄暗く、連日降り続く雨の粒が窓ガラスを跳ねる。部屋の時計はまだ4時半を指している。


どうやら早く起きすぎたようだ。


二度寝しようと布団に潜り込む。しかし一向に眠気が来ない。

しばらく足掻いたが、やはり目が冴えて眠くなる様子はない。


仕方ないので軽く身支度を整える。


変な悪夢を見た気がする。

大切な誰かが消えてしまったような、そんな夢だ。

誰かはわからない。顔が影になって見えなかった。


あれは誰だったんだ?


そう考えているうちに身支度を終えた。時計の針はまだ5時だ。


さすがに暇なのでゲームでもするとしよう。

俺はスマホを起動し、昨日配信したばかりの株式会社「SiRoNeKo」の新作RPGをプレイする。


配信と同時に仲のいい友達と遊ぶつもりだったのだが、昨日先生に雑用を押し付けられていたので先にプレイしていた。結局その後も連絡は無く、気づけば睡魔に負けていた。


かなり面白かったので相当進めてしまったが、アイツは俺よりゲームが上手いし、多分すぐに追いつくだろう。

その後、ゲームに夢中になり、気づけば7時手間だ。


学校までは歩いて3、40分ほどほど。少し早いが、たまにはいいかもしれない。


靴を履き、家を出る。

雨はかなり弱くなっており、小雨と言っていいほどだ。雨の湿気と、まだ残る夏の暑さが少し鬱陶しい。



小雨が降り注ぐ通学路は、まだ人が少ない。歩いていると、ビニール傘が落ちているを見つける。親骨が折れている。捨てられたのだろうか。


ビニール傘を見ていると、車が通りその時の風でフワッと飛んでいく。


何故だか少し、嫌な予感がした。

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