04.どこかへ誘う謎の声?
『おーい!!こっちだこっち!!早く来てくれー!!!』
滝に近づき、声もかなりはっきり聞こえるようになった。
しかし、未だに人影のようなものは一切見えない。大きめの岩の上にいるのだが、見渡す限り森が広がっているだけだ。
うーん、どうゆう事だ?
まさか…、幽霊……?
『下!!下見て下!!!あーしーもーとー!!!』
ん?足元?
目線を下に移す。
そこは大きな岩と岩の隙間、大人の腕が入るかぐらいの細い隙間がある。
頭は…入るか。
隙間に頭を入れ、ゆっくりと中に入る。
岩の隙間には小さいが空洞があり、そこに薄らと川の水が流れている。奥の方は影になっており、良く見えない。
影に目を凝らす。
そこには、「白い棒」が転がっていた。
いくつも、いくつも、いくつも。
見覚えはある。
しかし、実際に見たことは無い。初めて見た。
それは人骨だ。
大きさからして、成人男性のものだろうか。所々苔が生えており、かなり昔に命を落としたであろうことが分かる。
……まじで?
まじで…幽霊……?
『どこ見てるのー?こっちこっち!!』
…ん?
声は人骨のある左側ではなく、反対の右側から聞こえてくる。
俺は反対方向へ顔を向ける。
そこには短い片刃の短剣が落ちていた。
刃渡りは15cm程。光を全て吸収してしまうような黒い刃は、その部分だけ空間に穴が空いているかのごとく黒い。
その柄には、十字架を咥えた黄金の烏が象られている。羽1枚1枚まで細かく作られており、今にも動き出しそうだ。
でもこの短剣以外には何も無い。
ってことは…?
(……もしかしてこの声の主って、まさか君?)
『そうだよー!!!』
そう言って短剣はカタカタ震える。
……まじかよ。
猫生初のコミニケーション相手は、まさかまさかの無機物だった。
『いやーほんと寂しかったよー!こんな森の奥地に人なんて滅多に来ないし、僕の声が聞こえても、殆どの人が「悪霊の声だー!」って言って逃げてくんだよー?失礼極まりないね!』
(それは大変だったな)
俺もちょっと悪霊かと思ったけど…。
まぁいい。
剣であれなんであれ、初めて言葉が通じるヤツに出会ったんだ。情報集めしないという訳には行かない。
(なぁ、黒剣)
『お?どうしたー?』
(悪いけど、ここがどこかわかる?)
『え?知らないの?』
(実は、ちょっと道に迷ってしまって…。)
『へー、そーなんだー。……仕方ないなぁ?特別にこの僕が教えてあげよう!』
(ありがとう、助かる。)
そうして黒剣は、テンション高めに教えてくれた。
要約すると、この世界には7個の大陸があり、ここはその中でも南東にある『ロガンド大陸』の東に広がる大森林、『エリフィス大森林』という場所らしい。
ここにある白骨死体は、元黒剣の所有者らしい。
魔物退治にこの森を訪れたのだが、土砂崩れに巻き込まれて死亡。以来10数年間、ここでずっと誰かが通るのを待っていたんだそう。
それで何年かぶりに、近くに人の気配がしたから思わず声をかけてしまったらしい。
つまりここは、魔物が普通に蔓延っちゃってる系の今流行りの異世界ということだ。
おいおい、やべぇよ…。
ゆったり生きていくとか無理ゲーじゃないか…?そもそも俺は生きていけるのか…?
『でも人だと思って声をかけたら、まさか動物だったなんてねー!びっくりしちゃったよ!』
(珍しいの?)
『珍しいよー!こんなはっきりとした意識と知性を持っている動物、久しぶりに見たよー!』
!!
俺以外にも転生者が!?
(それはいつどこで!?)
『え?えーっと…500年ぐらい前にハウガナ大陸で見たよー。真っ白な狼でねー、雪道に急に現れて大きな思念で「立ち去れぇ!!」って威嚇してきたんだよー』
ご、500年前かぁ……。もう死んでる可能性の方が高そうだ。
『ま、いいや。それよりも…』
(ん?)
『実は君にお願いがあるんだ。』
俺に?こんなか弱い猫に?
(どうした?)
『僕を、ここから連れて行って欲しいんだ!!』
(…ほう?)
『僕はこの狭っ苦しい隙間に何年もいるんだけど、もうさすがにうんざりだよ!!
でもここはあまり人が来る場所じゃない。この機会を逃せば、また何年もこの狭い岩の隙間に白骨化した死体と一緒に居ることになる。そんなのまっぴらごめんだ!頼む!!!』
(……)
うーん…どうしよう。
俺は今まで、頼られたことが全然ない。むしろ「邪魔だ」と痰を吐きかけられたことの方が多い。
そのせいか、頼られると非常に断りずらい。
それに異世界に来て、一番最初にコミニュケーションを取れた相手を見捨てるのもなんか後味悪くて嫌だ。
特に断る理由もないし、連れ出すとしよう。
(いいよ、連れて行ってあげるよ)
『ほんと!?ありがとーー!!!!』
(ちょっと待ってね)
さっそく、運びだそうと黒剣の持ち手を咥える。
『あ、待って直接は!!』
(え?)
その瞬間、ガクッと身体中の力が抜ける。まるで糸の切れた操り人形のように、指1本も動かせない。
何がおきた?
そう思うよりも早く、視界が途切れた。
_ _ _ _
白い空間に少女が1人立っている。
少女は俯き、笑っている。
少女は歩き出す。
こちらに向かって1歩、また1歩と。
彼女が歩いた後に、カラスの羽が降る。
1枚2枚なんてものじゃない。
何千枚何万枚何億枚と降り積もる。
白い空間は、どんどん黒く染まる。
俺は逃げようと走り出す。
しかし動けない。
俺の手を、足を、真っ黒なカラスの足が掴んではなさい。
少女は俺に触れ、囁く。
『奪え』
途端、
思考が
意識が
何かに染まる。
奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え
染まれば染まるほど、『奪え』というどす黒い『何か』が沸きあがる。
奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え
沸きあがる『何か』は、血を、骨を、肉を、次々と満たしていく。
奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え
全身を満たしても、『何か』は止まらない。
奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え
行き場を失った『何か』は、身体中の穴という穴から溢れ出る。
奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え
『何か』はどんどん部屋を床を黒く塗りつぶしていく。
奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え
『何か』はとても甘く、苦く、冷たく、暗い。
奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え
『何か』は止まらない止まらない止まらない
奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え
『███』█、████████。
奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え
その時、
チリン
どこかから、鈴の音か聞こえた気がした。
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