03.ほの暗い過去



通い慣れた、中学校の教室。



『███████!!』



奴らが俺を囲んで笑う。



『██████████』



影が何かを呟きながら、俺を殴る。

それを止める奴はいない。



『██████████!』

『████████████████!』



むしろそれを見て、歪んだ醜い笑い声をあげる。



『████████』



殴られる。


いたい。


誰か



誰か



誰か



████



_ _ _ _ _ _



「…っ!!」


俺は勢いよく目を覚ます。身体を起こした途端、身体中が痛む。


「アガァ!!??」


痛みに悶えながら蹲る。

鼻に触れる、黒くてもふもふの毛。


……こっちは夢じゃないのか…。



俺はこの数日間、高熱を出していた。多分あんな怪我をしたせいだろう。その間、他の肉食動物に襲われなかったのは運がいい。


しかし、水は川があったから何とかなったが、食料は今日まで何も食べていない。


人間の頃は、数日間何も食べないなんてことはなかった。冷蔵庫を開ければ何かしらの食料はあったし、無ければコンビニで買いに行くことが出来た。


しかし、俺は今猫。しかもここは森のど真ん中。

コンビニなんてある訳ないし、そもそも俺は一文無し。いかに前の生活が恵まれていたかわかる。


はぁ…こうなってから気づくなんてなぁ……。


まぁ、後悔しても腹は膨れない。

今は食料探しに専念しよう。


今いる場所は、川の近くの木の根元にあったなにかの巣穴らしき場所。ここに来た時、巣穴の中には蜘蛛の巣が張っており、かなり埃っぽかった。恐らく前の持ち主は、結構前に別の巣穴に引っ越したのだろう。


雨風を凌げる場所は必要だし、川からも近い。

しばらくはここを拠点にしよう。



痛みで軋む身体を動かしながら、獲物を求めて俺は川沿いを歩く。

川の幅はそれほど広くない。しかしその分流れは速く、渡るとしたらかなり苦労しそうだ。


にしてもこの前見たあの熊、明らかにおかしい。

目が4つもあるクマなんて俺は知らない。もしそんなクマがいるとしたら、かなり印象に残っていているはず。


もしかして、今流行りの『異世界転生』とかいうやつか?

俺はあの時死んで、猫に転生したとか?


そうゆー異世界転生系なら結構読んだことがある。

先人達(※フィクションだが)によると、こうゆー系には『ステータス概念』ってのがある事が多い。


ステータスとは!

ロールプレイングゲームを初めとするゲームなどにおいて、キャラクターの様々な状態を表すデータの事。

具体的には素早さや筋力などの能力値、残り体力を表すHPヒットポイント、魔法やスキルなどに使用するMPマジックポイント、経験値、レベル、習得した技能や称号などを表すことが多い。広義ではキャラクターと可分な要素、例えば所持している金品なども含む。


以上ウィ〇ペディア兄貴より。


つまり『ステータス概念』とは、上記の「ステータス」が実際にある世界観のことだ。


そうゆー世界では、「ステータスオープン!!」やら「ステータス表示!!」やら叫ぶもしくは念じると、半透明の板みたいなのが出る「窓召喚パターン」が多い。


他のパターンとしては、教会とか冒険者ギルドにある水晶とか紙とかに、手をかざしたり血を垂らしたりする「媒体が必要パターン」。

スキル「鑑定」を含む、専用のスキルによってステータスを閲覧する「スキルで観察パターン」などがある。


もしここが異世界だとして『ステータス概念』があるとする。


だとしたら俺に『チートスキル』があっていてもおかしくない。


チートスキルとは、異世界転生ものや異世界転移ものなどでよくある、特殊もしくは本来存在しえない"能力"や"スキル"を「チート能力」や「チートスキル」と言う。


最近の異世界ものでよく見かけるヤツだ。

それがあるならこの先かなり楽になるかもしれない。ってかないと困る。



俺は暴力はあまり好きじゃない。暴力を振る側も振られる側も、何の得もありゃしない。


俺は小さい頃から、何故か暴力や嫌がらせを受けることが多い。

親父は普段はいい父親なのだが昔から酒癖が悪く、酔うとすぐに俺を殴ってくる。


小学校では何度も嫌がらせを受けた。

初めは軽い無視や指でつつく程度のものだった。俺は強く拒まなかった。いちいち構うのがめんどくさかったし、あまり大事にして母に迷惑をかけたくなかった。



いじめている相手が何もしてこない、するとどうなるか。

いじめはどんどん過激になっていった。


上履きに泥を詰められたり、机に落書きされたり、クラス中から無視されたり、根も葉もない噂を流されたり。


中学へと上がると、いじめは無くなるどころか、さらに激しくなっていった。


投げる物は紙屑から硬球に、暴力は平手から拳や蹴りに変わった。

水をかけらたり、万引き犯に仕立てあげられたり、無理矢理カッターで手首に傷をつけられたり、ゴキブリの死骸を口に捩じ込まれたり。

見知らぬ同性愛者向け援交サイトに実名でレイプ好きとして晒され、知らないゲイのおっさんに無理矢理犯されたりなんかもした。


いじめていた彼ら曰く、



「お前の"目"が気に入らない」。



理不尽にも程がある。


あ゛ぁーーあ!!

思い出したらイライラしてきた。もう終わった話だし、掘り返すのはやめにしよう。


まぁ、以上の経験があるから、俺は暴力は苦手だ。


出来ればそうゆーチートスキル的なので、敵とか気にせずゆったりダラダラ生活していたい。もうあんな死にそうな思いをするのはゴメンだ。


ってことでさっそくチートスキル的なのがないか調べてみよう。とりあえずこの世界を「窓召喚パターン」と仮定して、ステータスオープンと念じてみる。


むむむ……!

ステータスオープン…ステータスオープン……!


……。


何も起きない。

念じ方が違うのか?


鑑定!心眼!天窓!開けゴマ……!


……。


やっぱり何も起きない。


まぁ…ですよねー。そんな都合のいいことないですよねー。


仕方ない、今は食料探しだ。

川のそばなら、カエルとかカニとか食べれそうな生き物が居るだろう。


さらに下流へ進む。



しばらく進むと、川が急斜面に差し掛かる。水の落差で、ちょっとした滝壺みたいになっている。


人があまり立ち寄らないのか、周囲の岩には水気を吸った緑色の苔が、太陽の光を反射してキラキラと輝き、水の中には小さな魚が何匹も列を成して泳いでいる。


まるで昔来た、沖縄の山原やんばるの川のような風景だ。


俺がその神秘な光景に目を奪われていると、



『ーーーー!』



何処かで声が聞こえた気がした。


「っ…!?」


咄嗟に耳に意識を集中させ身構える。

もしかしたらなにかの動物の鳴き声かもしれない。


動物の中には、縄張りに入ってきた他に動物に対して鳴き声で威嚇するものがいる。飼い犬が知らない人物に対して吠える時も、その相手を「自分の縄張りに侵入した敵」と判断して、「それ以上近くな!」と警告している時が多い。


もしそういった動物だとしたら、逃げようと走り出した瞬間襲われるなんてことも有り得る。


姿勢を低くして、何時でも飛び出せるよう構える。


どこだ……?



『ーーーー!』



また聞こえた。

しかし少し違和感を覚える。


声は確かに聞こえきた。しかし鼓膜で聞いている感じではない。


まるで脳みそに直接声が響いているみたいな妙な感覚だ。

何となくだが滝の近くから声が聞こた気がする。


警戒しつつ、ゆっくりと滝へ近づく。



『ーーーー!』



声が大きくなった。

どうやらこっちで合っているようだ。


しかし何を言っているかはわからない。まるで電波の悪いラジオのような、途切れ途切れのノイズ混じりみたいな声だ。


もしかして、これってテレパシー的なヤツか?

試しに俺も念じてみる。



(誰かいるのかー?)



『ーっ!?!?!?!』



聞こえたっぽい。

…驚いてるのかな?



『ーーーーーーーー!!!!!!』



明らかに音量が大きくなった。とりあえず敵意がある感じでは無さそう。


俺は滝へと近づいていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る