第5話 私、このままでいいのかな?(2)

「高校生になったら、高校生になったら、友達百人出来るかな〜♪」


つい数日前まで、そんなことを夢見ていた私でした。

でも、


「……ね、陽色。

悪いこと言わないから諦めた方がいいわよ、それ」


「………」


「噂になってたわよ。

アカリの妹が同級生をボコボコにしたって。

完全にみんな怖がってるじゃない」


私と祭華サイカの大親友。

夕凪アンナアンナ・ユウナギは、やれやれと呆れた口調だ。


「だ、だってぇ……」


あれは祭華が悪いんだ。

祭華が余計な事をしたから。


「祭華も祭華だけど、陽色も陽色よ。

大まかの事情は聞いたけど、限界越えようとしてたって聞いたわよ?

アリスさんにも怒られたんじゃない?」


限界を越える。

私はその言葉に心当たりがあった。

私の心臓に残された、呪いとも言える症状について。

祭華が飛び出して来たのは、単にリナの言葉に耐えられなかった訳では無く、その兆候を察知した為。

………いや絶対偶然だろ。


「また暴走したら手に負えないわ。

その魔改造アイギス生命維持装置で我慢しなさいよ。

ちゃんと気持ちセーブしなさい、じゃないと持ってかれるわよ」


「分かってるけど……」


でも、あんな事言われて、耐えられる訳がなかった。

私が飛び出さなきゃ、あの子はきっと怪我をしてた。


「そんな時こそあの馬鹿祭華使いなさいよ。

あいつあれでも天才だから、蹴っ飛ばして放り込んどけば大体なんとかするんだから」


「……はい」


ぐうの音も出なかった。

事実、その辺のコントロールにおいては私よりずっと長けている。

いや、大変不本意だが。

それよりも、


「……あいつ、反撃しなかった」


気が済まない、消化不良だ。

祭華相手にストレスを発散しようと思ったのに、あいつ全く反撃しなかった。


「次はぶっ倒す」


あいつが少しでも反撃したなら、私は同級生を一方的にボコボコにした危険人物扱いされずに済んだのに。


「……本当に反省してるの?」


「してる」


「殺気だだもれだったわよ?

信用できないんだけど」


「がんばる」


「はぁ、全く。

私が現場にいられればどんなに良かったことか」


ほんの少し(過小評価)突出しがちな私と、馬鹿の祭華。

アンナがいてさえくれば、上手くブレーキをかけてくれたのに。


「今からでもクラス替えできないかしら。

馬鹿2人のお目付役として」


「人数、間違ってますよ。

馬鹿なのは祭華だけ」


「間違ってないわよ」


私は訂正したが、アンナはその間違いを認めようとしなかった。

もしかしてちょっと怒ってます?



――



翌朝学校に行くと、なんだか学校じゅうが色めきだっていた。

原因はすぐに見当がついた。

掲示板の前に出来た人だかり。

そこには、小隊編成についての告知が大々的に張り出されていた。


学年を隔てず、様々なランクの勇者ブレイバーを編成する訓練小隊。

皆の目的は当然ながら――


「アリス先輩、私先輩がデビューした時からずっとファンだったんです!

だから、私を先輩の小隊に入れてください!」


「ちょっと、それなら私だってそうよ!」


「私、私はどうですか!?

2年ですけど、実績には自信があります!」


アリスの周りには人だかりが出来ていた。

アンナと行くからと一緒に登校しなくて良かった。

先に出たはずのアリスは、全く進めずに私に追い越されていた。


「あぁ、すまないね。

その件については追々告知をするつもりだ。

もちろん全員にチャンスがあるから、頑張ってくれ」


アリスはそう言って集まる生徒を説得するが、次から次へとキリがない。

それに――


「今年はアリス先輩の妹さんが入学していると聞きました。

その子もアリス先輩の小隊に加入するんですか!?」


予想はしていたけれど、こんな事を言う人も当然の如く出てくるわけだ。

そして、一部の人はチラチラと私の方を見て


「えーそうなの?」


「いいなぁ、私も妹だったら良かったのに」


「でも、それってちょっとズルくない?」


恵まれているとか。

贔屓されているとか。

そう言った目で見られるのは分かっているし、私自信それを否定する事は出来ない。


事実、皆が小隊編成の計画や、アリスの小隊に入る条件を先んじて知り得ていた訳だし。

例えそのつもりが無かったとしても、恩恵を全く受けていないとは言い切る事は出来ない。


そして、それ以上にアカリ/アリスの妹であると言う事実は、想像以上に重く、期待や嫉妬など、様々な形で私の肩にのしかかる。


私はその視線から逃げる様に、自分の教室へと急いだ。



――



「夢乃さん、昨日はありがとうございました!」


教室に入ってそうそう、銀色の少女が頭を下げる。

確かリナに絡まれてた子だった筈だ。


「あぁ、昨日の……ええと、名前は……」


「私、剣城マコトマコト・ツルギって言います。

特技は、抜刀術……なんだけど、昨日は手も足も出なくて………」


「まぁ……あれは比較的チートみたいな部類だから仕方ないと思うよ」


訓練用の装置デバイスでは手も足も出なくて当然だ。

汎用機よりも強力な力を持つ、一子相伝の継承デバイス。

生まれながら力を持ってるってやつだ。


「陽色、何突っ立ってんだ?

通れねえ」


後ろからそんな声がした。

眠そうでぶっきらぼうなこの感じ、祭華だ。


「あっ、ごめん。おはよう祭華」


「……ってマコトじゃねぇか。

何話してんだ?」


「ちょっと世間話……って、祭華マコトと知り合いなの?」


「んー、姉貴の伝手でちょっとな」


「ああ、雷華さんの……」


祭華は欠伸をして、机に突っ伏してしまう。


「ふふ、相変わらず朝に弱いみたいね。祭華」


「どうせ夜中にゲームやってたんでしょ。

ほっとけほっとけ」


なんだかみんなには怖がられてしまったようだけれど、新しい友達はできそうだと、そんな予感がした。


ホームルームの始まりを告げるチャイムと共に、ハワード先生が入ってくる。

私は寝ている祭華に肘鉄を食らわしつつ、自分の席に着く。


「おはよう諸君、全員揃っているようで大変よろしい」


ホームルームでは、件の小隊の件や、大会の話をされた。

やはり教室の視線が集まるのを感じたが、どちらにしろ私のやる事は変わらないから、気にしない事にした。


「――そして、皆さんは選抜前にやらねばならないことがあります。

ええと、この中では……夢乃さん以外は支給された装置デバイスを使っていると思います。

そして昨日の訓練で、強力な力を持った機体を持った人がいたのを見たと思います」


リナが持ってたやつとか。

私が使ってるのは特殊が過ぎるので例外として。


「彼女達が持っていたそれは、基本的な部分はみなさんの装置と変わりません。

違いは、皆さんの所持しているものが未覚醒の卵である事だけです、そこで――」


ハワード先生は、ホワイトボードにペンで大きく文字を書いてゆく。

その内容は『目標・覚醒』とシンプルだった。


「皆さんには能力の覚醒を当分の目標として貰います。

そして、覚醒ができなかった人は大会の出場資格が認められませんので、頑張ってくださいね?」


大会まで、あと1ヶ月。

あれ、私はこのままでいいのかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

HERO AND BRAVE!!!〜最強ヒロイン、始めました〜 久間我応 @kuma_GAOU

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ