第4話 夢乃・K・陽色(4)

虹色の光線が一直線に少女に吸い込まれて、直撃するその刹那、二人の間に1人の影が割り込んだ。


飛び出した私は魔力の盾を展開し、虹色の光線を防ぎきった。


「クロードさん、これ以上は駄目だよ。

アラートが鳴ったら終わりだって、先生も言ってたでしょ?」


「悲鳴で何も聞こえなかったわ、ごめんなさい?」


嘘つけ、と私は内心毒を吐く。

遠くにいた私にまでアラートの音は聞こえていた。

近くにいた彼女に聞こえていないはずがない。

後ろを見ると、足を解放された少女は他の生徒に介抱されていた。


『クロードさん!

アラートが鳴ったら終わりです。

それが守れないならそれなりの処罰を覚悟してください!』


「チッ、分かったわよ。

次から気をつけるわ」


リナはやや苛立ったように舌打ちをした。


スピード特化のあの炎弾による奇襲がいつ襲ってくるか分からない。

私は障壁を展開したまま、相手の様子を観察する。

今のところ遠距離しか使っていないが、彼女からはそれだけに収まらない風格を感じさせる。

赤い特攻服も相当動きやすそうだし、油断すると先の戦闘のようにいつでもスタイルを変えて来るに違いない。

炎だけでは無く、土や雷も操っていた所を見ると、スタイルは、多彩な攻撃によるオールラウンダーと言ったところか。


「後、人違いで決闘を申し込むとか、ちょっとどうかと思うよ?

名乗ろうとしてたんだから、ちゃんと聞いてあげないと」


「……何を言っているのかしら?

この学年に銀髪の生徒は他には――」


「いないみたいだね。

いや、厳密にはいるのかな?

知り合いだから候補から除外しただけで」


周囲がざわつく。

さっきの少女が、こちらを向いて立っていた。


「……事情は聞いたよ。

私、アリス先輩の妹なんかじゃないよ?」


「じゃあ、誰が!

アリス先輩の妹が入学しているのは、紛う事なき事実よ!」


リナは強気に言い放つ。

「あの噂、本当だったの?」という声が周りからちらちらと聞こえて来る。

それが嘘だと分かっている私からしては、なんだか申し訳ない気分になった。

噂が落ち着くのを待とうかと思っていたけれど、流石にこんな事態が起きてしまったら、これ以上見過ごす事は出来ない。


だから私は、短く、簡潔に、ただ一つだけの事実をキッパリと言い放った。


「私だよ、それ」


「……はい?」


辺りはしんと静まり返る。

アカリの妹が、アリスの妹を自称したのだ。

一瞬静まり返った会場は、「どういう事?」と、理解できていない声で溢れてゆく。


「私だって言ってるの。

アリスの妹。

探してたんでしょう?」


「何を言ってるの?

貴方はアカリの妹でしょ!」


「そうだよ?

アリスの妹で、アカリの妹。

アカリお姉ちゃんがいなくなってから、私はアリスお姉ちゃんに引き取られたんだ」


とても紛らわしいけれど、紛れもない事実。

それが私、夢乃・K・陽色ヒイロ・クロノス・ユメノのただ一つの真実だ。


「……へぇ、そうだったの。

だとしても、やる事は変わらないわ。

相手が貴方になるだけよ、やるの?」


私はチラリと観覧席の方を見る。

ハワード先生はにこりと微笑むだけで、何も動く様子は無い。

私はやや諦め気味にため息を吐いた。


「そりゃぁまぁ……此処まで来て引き下がれないでしょ」


出来れば止めて欲しかったけれど。

こうなってしまったら仕方ない。



「ふぅん、まぁいいけど。

それよりアカリの妹、それ本気で言ってるの?」


リナは私の手につけられたそれを指で示す。


「それ、生命維持をメインにした防衛装置デバイスじゃない。

とても戦闘に流用できるものじゃないわ」


彼女の言う通り、私の装置デバイスは生命維持をメインにしたものだ。


理由は私の心臓にある。

私の心臓は2年前、あの大災害で一度停止してしまったそうだ。


その為、私の心拍を常にモニタリングし、装着者の異常や危機を、高性能なバリアによって守る、魔法少女の戦闘用装置デバイスの技術を流用したもの。

けれど、


「私のこれは特注品でね。

他のとはちょっと違うの」


私は、それを更に戦闘用にカスタマイズしたものだった。

装置デバイスの複数起動は、に不可能だ。

だから私は、生命維持用のこのデバイスを用いて戦うしかない。

具体的に言うと、従来の障壁バリアをより高度に、マニュアルで操作できる。


例えば、全身を守る障壁を攻撃に転化するだとか。


「アイギス、防衛モードから攻撃モードへ!」


広域に展開されていた障壁バリアが拳に集中する。

硬い防壁は、凡ゆるものを打ち砕く攻撃にも有効となる。

遠距離攻撃は障壁バリアで防ぎ、接近戦で一気に決める!


私は攻略方法を胸に、初めての対人戦闘に意気込みを決める。


「言っとくけど、私はアリスの妹だからって、特別視したりなんかしない!

それが負けた勇者の妹であるのなら、尚の事!」


そんな最中、リナはいとも容易く、無自覚に、私の地雷を踏み抜いた。


「……今、なんて?」


「言葉の通りよ。

結局幻魔ファントムなんかに負けちゃって、結局弱いんじゃない。

その結果があの大災害なら、貴方のお姉さんは戦犯もいい所よ」


更に一つ、二つ。

程々にしておくつもりだったけれど、方針変更。

完膚なきまでにぶっ潰す。


「訂正しろ!

お姉ちゃんは弱くない!

私のとっての正義の味方ヒーローなんだ!」


私は猪突猛進に突撃する。

狙うは顔面、拳を振り被る。


ファイアボルト炎弾・射出!」


「効かない!」


手を眼前でクロスして、迫る炎弾を貫き、突破する。

そして振りかぶった拳は、その顔面を確実に捉えてそして。


――避けられないタイミングで、避けられた。


拳を撫でる風の感触、やはり手の内はまだ隠していた。


「チ、そんな服着といて、小細工ばっかり!」


「生憎とね、こういうのはうちの伝統芸なのよ!

そして――!」


彼女を中心に、風が渦巻く。

風は彼女の足に収束し、突風の様に一瞬で肉薄し、まだ体制の整っていない私を、最も容易く蹴り飛ばした。


渦巻く風に体が回り、視界が回転する。

そして10メートルも飛んだあたりで、私の体は土の壁に叩きつけられた。


「アースウォール、からのアースバインド!」


体に土が巻きつき、動きを封じ込める。


「そう、上手く、行くもんかぁぁ!」


アイギス、最大展開。

体の内から広域へ、障壁は土の拘束を内から砕く。


「何がヒーロー、女の子ならヒロインじゃない!?

何が2人の妹、妹がこの実力なら、姉の実力も知れたものね!」


何故ヒロインじゃなくてヒーローなのか。

それは私も疑問に思い、聞いたことがある。


『いやぁ、まぁ、かっこいいじゃん?

戦隊モノのヒーローって』


理由はそんな単純なものだったが、間違われるといつも真っ先に訂正する、あれはあれで、お姉ちゃんなりの、心の在り方の象徴だったんだと思う。

それに、


「私の事はどうだっていい。

でも、お姉ちゃんたちの事は馬鹿にするな!」


全力で、全霊で、迫り来る彼女を向かい打つ。

心臓ハートがどんどん熱くなり、胸の熱は末端まで届く。

拳は熱を持ち始め、強く発光し、何者も打ち砕く矛となる。

二つの影が交差して、互いの攻撃が射程に入る。

そして、


「――どおりゃぁぁぁぁぁぁぁあ!」


想定外の横槍飛び蹴りにより、私の体は真横に吹き飛ばされた。


「……へ?」


リナでさえ、訳がわからず立ち尽くす。


「――あのなぁ!

陽色は、ちっちぇんだよ!」


「……は?」


そして、犯人である祭華サイカは、とぼけた顔のリナに向き直り、何故か私の身長コンプレックスを罵倒した。


「まだちっちぇえけどな、けどな!?

それでも頑張ってんだよ!

あいつ自身、姉ちゃんに相応しい妹になろうと、その遺志を継ごうと、ものすごぉーく頑張ってんだよ!」


「訳が分からな……」


「それを、てめえが、馬鹿にすんじゃねぇよ!」


そして、思い切りリナを殴り飛ばした。

鈍い音がした。

流石に予想外過ぎて、リナはまともに受け身を取ることもできず、一撃にその意識を刈り取られた。


「……分かったか!」


「じゃねぇよ!」


私はドヤ顔でポーズを決める祭華を殴り飛ばした。


「何すんだ陽色!

アタシ今いい事いっただろ!?」


「蹴り飛ばしといて、何言ってんの馬鹿ヤロー!?

後、小さい言うんじゃねぇ!」


「よおし、分かった。

そっちがその気ならこの積年の因縁に今日こそケリを付けようじゃねぇの!」


「だから、いい加減シャーラァッッップ!」


むしゃくしゃしたのでボコボコにした。

リナの分まで。

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