第3話 夢乃・K・陽色(3)
訓練小隊の編成については、次の日のホームルームで発表された。
1ヶ月後にトーナメントがあって、その結果を元に先輩方が指名を行う事も。
志願して割り当ててもらう事も可能ではあるが、より強い小隊や人気の小隊は、全て指名で行われる。
勿論みんなの狙いは1つ。
事実上の最高ランク、
アリス・クロノスが率いる小隊だ。
「今日は3クラスの合同で訓練が行われるわ。
支給された
ジャージに着替え、
そして、今回の担当教師はシンディ・ハワード先生。
現役のオペレーターで、私達1-Dの担任だ。
「今日は訓練用デバイスを用いての軽い演習を行います。
既に個人のがある方は、訓練モードに合わせた上で、そちらを使ってもらって結構です」
私は腕時計と一体化した持ち込みの
「今日はほんのレクリエーションみたいなものよ。
ただそれを使う感覚に慣れてもらいたいだけ。
だから今から2時間、デバイス起動状態での凡ゆる行為を許可します。
しかしひとつだけ、相手を怪我させるような事はしない事。
何かあったら放送で言うから、その時は指示に従ってね。
それじゃあ初め!」
ハワード先生はそう言うと、観覧席のベンチに引っ込んだ。
「「「
あちこちでそんな声が上がり、それぞれのデバイスが起動する。
目に見えた変化は起きないが、中にはちらほらと服装が変わっている人もいる。
恐らくは個人で持ち込まれた
周りとはスタートラインが違う。
ちなみに私のそれはちょっと特殊なので、持ち込みではあるけれど、姿は一切変化しない。
「――なぁ、自由って事はアレよね?
戦ってもいいって事よね?」
グラウンドから1人の声が上がる。
声の持ち主は、赤い特攻服を見に纏った、金髪の女の子だった。
「祭華、あいつだれ?」
「んー、分かんねえけど多分、C組のやつだな」
なんとなく祭華と似た雰囲気があったので、聞いてみたが何も知らなかった。
だってヤンキーだし、知り合いかもと思ったんだけどなぁ。
ハワード先生が放送のスピーカーを通じて、それに答える。
『相手を怪我させないなら、何をしたって構いませんよ。
ただ、アラートがなったら即座に攻撃を止める事』
「分かったわ。
じゃあ、そこのお前、私と戦いなさい」
そうして指をさされたのは、私――ではなく、全く関係のない女の子だった。
確か同じクラス。しかし、入学式以降、風邪で体を壊していたらしく、今日が初めての登校だった。
銀髪の小柄な少女は、状況を把握出来ずおどおどと困惑している。
「出来ないなら逃げていいけど?
そんなで
赤い特攻服が嘲るように笑う。
「馬鹿にしないで、私だって勇者になりに来たんだ!」
小柄な少女は、負けじと叫び返した。
「じゃあ、好きな武器を選びなさい。
そこに支給のやつが置いてあるでしょう?」
小柄な少女が選んだのは、刀だった。
「……ねぇ祭華、なんであの子絡まれてるの?」
「いや、見てわからねえか?
周り見ろよ周り」
私は言われるがままに周りを見る。
すると、
「ねぇ、あの子ってもしかして」
「そうだよね、アリス先輩の妹さんだよね?」
「やっぱり強いのかな?」
私は頭を抱えた。
つまり、あの子が狙われた理由とは。
「単に銀髪だったから、アリスお姉ちゃんの妹だって勘違いされたって事?」
「だろうな。
思いっきりトバッチリだぜ」
アリスの妹は私の事だ。
しかし、アカリの妹である赤い髪の私がアリスの妹でもある事など、誰に分かろうか。
「……止めないと」
勘違いされているのもそうだが、彼女の格好は
運動着から変化していない。
未覚醒の通常
「いや、もう少し待て。
あの小さいの、やる気だぜ」
小柄な少女は刀を腰に構える。
恐らくは抜刀術、それも構えただけでのあの風格、かなりの使い手だ。
「へぇ、なかなか様になってるじゃ無い。
やっぱりお姉さんに鍛えられてるのかしら」
「……? 何の事?」
「惚けなくてもいいわよ。
ちなみに私は、リナ・クロード。
由緒あるクロード家の後継者」
「わ、私は……」
「貴方は言う必要はないわ。
言わなくても分かるから」
リナと名乗った少女は小柄な少女の名乗りを妨げた。
完全にアリスの妹だと認識してしまっているようだ。
「それじゃあ、行くわよ。
先に攻撃したのはリナだった。
殆ど不意打ちに近いような攻撃、それも速度を重視した炎弾だった。
小柄な少女は反応する事も出来ず、小さな悲鳴をあげて小規模な爆発にじりりと後ずさる。
「反応すら出来ていないようね。
ファイアボルト!」
さらに一発、そして二発。
次々に高速の炎弾が少女を襲う。
不意打ちの一発は食らってしまったが、流石に的でいる気は無いらしい。
炎弾をしっかりと飛んで避けていた。
「駄目だな、ありゃ。
致命的に相性が悪すぎる。
それに、クロードはまだ本来の実力を見せてねぇ」
祭華の言う通りだった。
ひとしきり炎弾を放った後、それがもう通用しないと分かると、彼女は攻撃パターンを変えてきた。
具体的に言うと、攻撃が変則的になり始めた。
直線的だった炎弾は曲がるようになり、当たらなかった攻撃も、徐々に当たるようになって行った。
「くっ、このぉ……!」
焦った少女が、やぶれかぶれに突撃する。
居合による攻撃は、近距離であって初めて成立する。
遠距離から一方的にやられている今の状況では状況は何も改善しない。
だが、それはあまりに無防備で、無策過ぎた。
「………っ!?」
間合いを詰めようとする彼女の足が止まる。
足元を見ると、彼女の足が隆起した土に埋まって動けなくなっていた。
「アースクエイク、動きが単純過ぎるのよ!
そして、ライトニングスフィア!」
彼女の足元に金色の魔法陣が広がる。
そして、迸る電流の柱が、動けぬ彼女に襲った。
「う、あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
体を包んでいた障壁が軋み、これ以上のダメージは、危険だとアラートが鳴る。
「それじゃあさっさと割るわよ。
奥義・エレメンタルミサイル!」
リナの手に七色の光が収束する。
相手の少女は電流で痺れて動けない。
それに、彼女の
これ以上のダメージは許容できず、体に損傷を与えてしまう可能性がある。
『リタさん、それ以上は――!』
先生が放送で呼び止めるも、既に時は遅く、攻撃は既に放たれていた。
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