第2話 夢乃・K・陽色(2)

「陽色、遅かったじゃないか」


「いやいや、まだ入学してから1日しか経ってないんだよ?

生徒会室の場所なんて分からないって、アリスお姉ちゃん」


昼休み、生徒会室に入ると、そこでは銀髪の麗人が待っていた。


――アリス・クロノス。

7つ星の階級を持つ勇者ブレイバーであり、この学校の生徒会長。

そして今は私のお姉ちゃんでもある。


「それより、アリスお姉ちゃん。

私が入学するって、他の人に言ったでしょ」


「うん? 駄目だったかい?」


「駄目じゃないけど……変な噂が流れちゃってるよ?

あの2人の妹が同時に入学しているらしいって」


「……しまったな、勘違いされてしまったか」


アリス・クロノス、夢乃灯アカリ・ユメノ

2人の妹が入学している事自体は間違った情報ではない。

ただ一つ、間違っている部分があるとすれば、それは2人の妹が同時に、即ち2人の妹がそれぞれ入学しているという情報にある。


本当の話はちょっと違う。

アカリの妹も、アリスの妹も、どちらも私の事を示している。

アカリお姉ちゃんがいなくなった後、アリスお姉ちゃんは1人になった私を妹として、家族として迎え入れた。

つまり、2人の妹は同一人物であり、入学する以前に1人しか入学していないのだ。


「ま、苗字は同じだし、顔も髪もそっくりだから、隠そうとなんてしてなかったけどさ、それより――」


弁当を箸でつつきながら、話を変える。

わざわざ生徒会室の人払いをしてまで、私だけを呼び出した理由の事だ。


「何か話があるって聞いたけど、どんな話?」


「ああ、その事か。

まぁ、難しい話もなんだし、手短に済ませよう」


アリスはフォークを握った手を止め、この上なく真剣な眼差しでこう言った。


「――私とバディを組まないか?」


バディ、つまりは勇者ブレイバーとしての活動をこなす上での相棒というわけだ。

今、アリスは1人で活動していて、元々彼女のバディであったのは。


「……それは、アカリお姉ちゃんの代わりとして?」


「その通りだよ。

私がこの時期に活動を再開したのも、陽色がこの学院に入学する事になったからだ」


「私と、一緒に活動したかったから?」


「ああ。

でも好都合だろう?

なぜなら陽色の目的は――」


私の目的。

私の夢。

私が勇者ブレイバーを志して、この学院に入った理由、それは。


「――君は、正義の味方アカリになりたいんだろう?」


その通りだ。

私がこの道を選んだのは、お姉ちゃんになるためだ。

私を守って、命を落としてしまった、私のヒーロー、大切な家族。

その想い、その意志を継ぎたかったのだ。

でも。


「ごめん。それは、無理だよ」


誘ってくれるのはとても嬉しいけれど。

その申し出は、受け入れられない。


「私は陽色ヒイロであって、アカリじゃないから。

そこまでアリスお姉ちゃんに甘える事は、出来ない」


夢乃灯アカリ・ユメノは、7つ星の勇者ブレイバーで、最高の正義の味方ヒーローだった。

しかし、ヒイロはまだその道を踏み出したばかり。

アリスの足を引っ張るだけだ。


「ところでこれ、ここで話す必要あった?」


確かにこんな話、他の人には聞かせられない。

しかし、私とアリスは今、同じ家に住んでいる。

この学校の学生寮、アリスの部屋は、7つ星という最高戦力の待遇に見合った部屋が充てがわれている。

人に聞かれたくないのなら、家で話せば良かったのだ。


「それは、その……一緒に昼食を食べたかったから……」


言いにくそうに、顔を伏せる姉。

そんな事だろうとは予想していたのだが。


「でも、陽色なら断ると思ってたよ。

君ならきっと、自分の実力で這い上がろうとするだろうから。

かつてアカリがそうだったようにね」


「じゃあ、どうして?」


「こんな計画があってね。

陽色には知って貰いたかったんだ」


そうして差し出されたのは一枚の紙。

そこには『新世代育成の為の訓練小隊の編成』と書かれていた。


「方針としてはシンプルだよ。

1年から3年まで、1つ星から7つ星まで、混合で小隊を編成する。

あの大災害以降、勇者ブレイバーの人手はまるで足りていない。

だから、本来は順を追って任務を始める1年や2年を、3年生のサポートとして、早期に現場に投入する」


「それって、もしかして。

昔の2人みたいに?」


アリスとアカリは、かつて大きな事件に巻き込まれ、特例で高ランクの小隊の任務に同行した。

だから最年少で勇者ブレイバーになる事が出来たし、7つ星になるのも早かった。

同じように、まだ経験の無い下級生を上級生の任務に同行させ、現場にて徹底的に鍛え上げる。

というのが、この計画の趣旨らしい。


「その通りだよ。

小隊の中心メインとなるのは、現在在学している現役の勇者ブレイバー達。

サポートとして配属される人員は志願制と、指名制。

当然、私も小隊を編成する」


アリスの言いたい事は理解できた。

つまり彼女は、かつてアカリがいた場所を、実力で勝ち取って来いと言っているのだ。


「で、どうやって実力を示せばいいのかな?」


7つ星のアリスが編成する小隊。

彼女の様子からして、恐らくはメンバーは全て彼女による指名制だろう。

誰もがその席を狙うだろうし、生半可な実力ではついていく事も叶わない。


「1ヶ月後、学年毎のトーナメントが開催される予定だ」


「……分かった。

そこで優勝すればいいんだね」


「話が早くて助かるよ。

私は全ての学年から、サポートとして最高のメンバーを選抜するつもりだ。

妹だからという理由だけで選ぶつもりは毛頭無い」


当然、そんな事は微塵も望んでいない。

私が憧れた正義の味方アカリは、そんな事をしないから。


「望む所だよ、お姉ちゃん!」


予鈴が鳴ったのは、丁度その時の事。

私達は慌てて残った弁当を掻き込んで、教室に駆け戻ったのであった。

祭華はどうせなら3人で食べたかったと愚痴っていた。

いや、本当にごめん。

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