HERO AND BRAVE!!!〜最強ヒロイン、始めました〜

久間我応

夢乃陽色、入学します!

第1話 夢乃・K・陽色(1)

海上に作られた人工島の国、アークアリア。

科学と魔法の技術により、近未来的に発展したこの国には『魔法少女』がいる。


正義の為、平和の為、はたまた純粋な友情の為か。

それぞれの願いの為に、果敢に戦う少女達。

人々をその天敵から守る人類の守護者。

勇者ブレイバー、それが彼女達に与えられた名前だ。


今から5年も前の話になる。

ある2人の勇者ブレイバーが、この国に誕生した。

13歳という史上最年少で、戦場に降り立ち、たったの3年という短い歳月で、彼女らは事実上の最高ランクである、七つ星のランクを与えられた最強の魔法少女。


その姿は誰よりも凛々しく、その氷はあらゆる敵を凍てつかせ、打ち砕く、まるでさすらいの騎士のような魔法少女。

氷の勇者――アリス・クロノス。


その笑顔は誰よりも明るく、その剣は闇を焼き払い、光を照らす、正義の味方ヒーローを自称する魔法少女。

炎の勇者――夢乃灯アカリ・ユメノ

そこはヒロインじゃ無いのかと言う人もいるが、彼女自身がヒーローを名乗っていたのだから、仕方がない。


2人は協力して多くの困難に立ち向かい、その悉くを打ち砕いてきた。

それが、ほんの1年前までの話。


2人の魔法少女は1年前、この国を襲った未曾有の大災害によって、その片翼を失い、その輝きを失った。


あかりは敵と相討ちに燃え尽きて、親友を失ったアリスは活動を休止した。

それが、つい昨日までの話。


「ねぇ、聞いた? アリス様が勇者ブレイバーの活動を再開するってさ!」


「聞いた聞いた! 良かったぁ、アリス様が元気そうで」


空のモニターに映し出された今日のニュースでは、あの氷の魔法少女が活動を再開し、人類の脅威である幻魔ファントムを倒したと報じられていた。


「――あれ? 今のって……」


「どうしたの? 急に振り向いて」


「いや、気の所為かな。

今アカリ様の姿を見かけた……ような……」


「えぇ!? 見間違いでしょ、だってアカリ様は1年前の大災害で………」


死んでしまったのだから、いるはずの無い。

その通りだ、彼女達の言うことは正しい。

空中に映し出された彼女の隣に、あの誰よりも明るく、眩しい正義の味方ヒーローの姿は無い。


「……アリス、元気そう」


その人影はそんな事を呟いて、人混みの中に消えていく。


「見間違えだよ、きっと」


間違えられて当然だ。

彼女と同じ、燃えるような赤い髪。

顔も、姿も、声も、何もかもが変わらない。


でも、正義の味方ヒーローはもういない。

この事実だけは、どうあがいても覆しようがないのだから。



――



星歴2021年9月14日。

アリスの復帰から早くも半年が経ったある日。

次世代の勇者ブレイバーを育成する機関を内包した学院――国立聖アリア女学院にて、入学式が行われた。

それから早くも一週間。

校内はある噂で持ちきりになっていた。


「ねぇねぇ、聞いた? あの"噂"」


「聞いた聞いた、アレだよね。

夢乃灯アカリ・ユメノの妹が入学式してきたって話!」


「それだけじゃないみたいよ?

アリス・クロノスの妹も入学してるんだって!」


「えっ、なにそれ初耳!

それ本当なの!?」


「うん、アリス先輩が話してたって話、アリス先輩と同じクラスの先輩から聞いたの!」


入学式が終わってからから間もないにも関わらず、校内はすっかりこの噂で持ちきりだった。

夢乃灯アカリ・ユメノ、アリス・クロノス。

かつての伝説の2人の妹が、同時にこの学校に入学したらしいと。


「……で、真相を知ってる当人としては、どんな気分だ? 陽色ヒイロさんよ」


隣の席から、見るからにガサツそうな少女がニヤニヤと笑う。

私の中学からの友達の穿天祭華サイカ・ガテンだ。


祭華サイカ、楽しそう」


当の本人である私は――夢乃陽色ヒイロ・ユメノは憂鬱だった。


「いやぁ、最高に楽しいわ。

噂って一人歩きするからタチが悪いよなぁ。

ま、側から見る分には問題ないけどさ」


「もう、他人事だからって………」


そう言いながら、私は教室をゆるりと一瞥する。

ほとんどの視線がこちらに集まっていた。

やはり、アカリの妹という事で一目置かれるのと同時、何か近寄り難い存在になってしまっているらしい。


「あぁ、腹筋痛ぇ」


まぁ、その原因にはこの笑い転げる悪友も含まれているのだろうが(見るからにヤンキーだし)。


などと思惑していると、制服のポケットに入っていた携帯が震える。


「ん、誰からだ?」


「お姉ちゃん」


私がそう答えると、祭華は見るからに不機嫌そうな顔をする。


「チッ、アンナがそろそろ泣きついて来るかと思ったんだが。

2人と別のクラスで寂しいって」


「それはもう届いてる」


夕凪アンナアンナ・ユウナギ、中学では私と祭華と同じクラスだった友達だ。

彼女もこの学校に入学したが、別のクラスになってしまった。


「……アタシには来てねぇんだけど。

なんでだ?」


「図にのるからじゃない?」


「うわひっでぇ、流石のアタシも傷付くぞ?

で、なんて?」


「お昼ご飯一緒に食べようって」


祭華は少し考えて。


「アタシも行っていいか?」


「大切な話があるらしいからだめみたい」


私はその問いをやや被せ気味で切り捨てた。


「はぁ!? アタシは誰と一緒に食べればいいんだ!?」


「アンナと食べればいいじゃん。

寂しいなら」


祭華はぎくりと固まって顔を真っ赤にする。

本当は寂しいのは祭華の方なのだ。

授業中『あいつ大丈夫かなぁ』とか、アンナを案じるような独り言を呟いていた事を、私は知っている。


「い、言われなくてもそうするわ!」


「はいはい、頑張ってー」


果たして祭華はアンナを誘えるのか。

ああ見えて恥ずかしがり屋だから絶対無理だと、私は勝手に決めつけた。

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