第25話

ここは、トゥレ近郊の村。


「トゥレ?おめぇさん方、トゥレに行こうって言うのか?」

「そうだが?」


食料等を買い足していると目的地に驚かれた。


「悪いことは言わねぇ。やめた方がええ。」

「どうして?」

「トゥレは呑まれたんよ、ダンジョンに。」

「呑まれた?どうして。」

「わからんが、今はひとっこひとり誰もおらんよ。」

「そこにいた住人は?」

「ナークに移ったと聞いているぞ。」

「そうか。良い話を聞けた。」


金を渡して、進路をトゥレからナークに変更した。

村からナークは何時もの工程で2日程の距離だった。

ナークはトゥレよりも南にある町で、村で聞いたとおりトゥレからの移民が多くいた。

元々トゥレは渓谷にある町で年中そこに吹き込む風を利用した産業が盛んだった。

トゥレの住民は良民と評判で近くの農村から小麦を買い付けに向かい、トゥレで製粉したものを流れる川を利用して販売に向かう等信頼でなり立つ製法を多く取り入れており、その影響もあって町を失ってから散々になった住民は各町村で暖かく迎え入れたそうだ。


「話を総合すると呑まれたのは8年前、祠からゴーレムが涌き出てきて家財等も取り残したまま、身一つで逃げ出した。トゥレにとって不幸だったのはその立地だ。元々、末端の地で冒険者の数は殆ど居なかったのに加えて周囲に大勢の冒険者を泊まらせられる拠点がない。それに取り囲む壁面は内外ともに登ることは難しい、更に言えばモンスターや盗賊対策で作られた門を越えない限りモンスターは出てこない。つつかない限りそんはなく、その対応に文句を言える領主はその騒動で家族共々亡くなった。借りに生き残っていても、救助に対する礼も払えるかわからない。そのままお取り潰しとなった訳か。」

「どうされました?」

「いや、あれだけの数に聞き込みをして『鷲神』という言葉がないのが気になる。」

「エル。」

「え、えーと…。」

「本人はわからんだろ。母親生まれ故郷の話らしいからな。ともあれ、だ。行ってみるとするか。」


ナークは川に面した町だった。

その川にそって進むこと2日、トゥレに到着した。


「確かに、でかい門だ。」

「通用口も固められています。」


門は外側から開かないように物理的に封印されている。


「エイダ、エルを落とさないようにしろ。」

「わかりました。」

「え?」


コンテナの接続を解除してトライク単体に切り替える。


あの岩は使えそうだな。


トライクに3人乗車で門から距離を取った。

オートマチックからマニュアルに変更、ジェット機能のロックを解除。


「えっと、いったい何をするんですか?」

「飛ぶぞ。」


タイヤで路面を走り加速していく。


「ウ、ウワァァァァア!!」

「舌を噛まないようにな。」


ジェット機能と合わせて目を付けていた岩を駆け上がる。


フルスロットル!!


岩の頂点にたどり着いたところでホバーモードに切り替えて、今度は左スロットルを一気に開く。

前方への慣性が効いた状態で浮上し、断崖絶壁に守られたトゥレを見下ろした。


「……これは予想外。」


当初、町の上空で停止してそのまま徐々に降りようとしたが、メーターの数値が故障したのかと思うくらいに暴れだした。


…なるほど、魔力濃度と何らかの原因で乱気流のような状態になっている。


崖の淵に降りれるが、それから下はトライクでは安全に降りられそうにない。


「プランB、か。」


淵に降りてトライクを収納した。


「エイダ、これを使え。」

「わかりました。」


エイダに渡したのは軽業というスキルが入ったスキルオーブ。

レベル1とはいえ、これからやることを考えれば無いよりはましだ。


「ここから降りる。お前は俺とだ。」

「え?………えっ!?」

「エイダは安全第一で降りてこい。」


エルを担ぎ、崖から飛び降りる。

直立に近い絶壁ではあるが直立でさない。

取っ掛かりもあれば、足場や座れそうな箇所もちらほらある。


「ウソッ!ウ…ウソッウソッウソッ!!!」


人ざらなるものが作った靴の強度を頼りに摩擦を作り出しながら絶壁を真っ直ぐ下っていく。

前世の最期、霊峰富士の山頂『天に近き場所』に辿り着くまでには前々世の富士とは別の山を踏破する必要があった。

特に天に近き場所の手前は年中雪や雹が暴風とともに吹き荒れ、その環境で断崖絶壁は凍結しほぼ摩擦はない。

その中で昇降はなまじ道具を頼っては落下に繋がる。

それを回避するためには見極める力が必要だった。

目的地に向かう地脈の一端、それが表面に現れた箇所には微かな摩擦がある。

それを見極め、飛び付き、掴み押さえることで次の道筋を感じ、その先を仰ぐ。

その経験をもってすれば、子供を1人抱えていようと崖と足の摩擦を維持し続けること等造作もない。


「ひぐっ………こ、怖かった…。」

「遅くなりました。」


エイダは10分ほど遅れて降りてきた。

足場を見つけて飛び降り、確実に下を目指した結果だろう。


「どうしましたか?」


エルは先程の体験で俺にしがみついていた。

漏らしはしなかったにしても泣きじゃくっていて、自分で歩けそうもない。


「問題ない。問題があるのはここだ。」

「?」

「あれをみてどう思う?」

「あれとは…!?」


降りた先、すなわち旧トゥレではゴーレムが人の真似をして風車を回していた。

まともな風車は2、3台しか残っておらず、羽が壊れた風車は人力ならぬゴーレム力で風車を回している。

まともな風車や壊れた風車、それを回す風とゴーレム、封印された門、ダンジョンからあふれでる魔力が上方向に魔力の流れを作り出していた。


「破壊しますか?」

「……いや、襲い掛かってくる奴だけでいい。こちらも向こうのテリトリーには入らないようにしろ。」


あれは普通のゴーレムとはどこか違う気がした。


トール

【魔術】ショット(一式・通常型(一番)・二番【三連】・三番【波紋】・四番【臨界】、二式・近接型(一番)・二番【波動】)

【神具】神酒、知識の書、制約の剣

【道具】ディメンションバック(4話)、スマホ(4話)、清水の水袋(6話)、輝きの石(6話)、BPベーシックカタログ(13話)、魔力エアジェットトライク(24話)、魔力エアジェットトライク専用コンテナ(24話)、魔力エアジェット専用ツナギ(24話)

【重要】森の胡桃(5話)、大鬼の涙(21話)

【称号】森の友(5話)、鬼殺し(21話)

【BP】6250

(東果ての森→ルミット→シラク→ダンジョン『小鬼の巣窟』→ナーク→トゥレ)


エイダ

【魔法】火魔法(レベル3)ファイアショット

【技能】弓術(レベル5)、蹴り(レベル8)(15話)、採取(レベル5)(16話)、清掃(レベル6)(16話)、房中(レベル6)(16話)、怪力(レベル8)(16話)、高速再生(レベル3)(20話)、軽業(レベル1)(25話)

【道具】短弓、矢筒、短剣、黒のチョーカー(12話)、魔力エアジェット専用ツナギ(24話)

【重要】隠者の誓い(12話)

【称号】忠誠を捧げしもの(12話)


エル(エリッサ)

【技能】運搬(レベル3)、サバイバル(レベル3)、陽動(レベル1)

【道具】左眼『眼石(原石)』(22話)、右腕『悪魔の腕』(22話)、右腎臓『人工臓器』(22話)、上行結腸『魔力貯蔵庫』(22話)、伸縮自在軽量スニーカー(24話)、馬鹿から始めるシリーズ賢者編(24話)

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