第23話

「トール様、しばしこの子供お借りしてもよろしいですか?」

「ん?ああ。」


従順になったというか丁寧になったエイダは圧力を増していた。

少し離れたところで目線を合わせて話をしているが、急な展開に子供が着いていけず困惑している。


「いい?トール様は見ず知らずの貴方をここまで治療されたのよ?その恩に報いないというの?」

「誰が頼んだんだよ!?あのまま、道端でのたっ…。」


子供はエイダと話しているうちに記憶が戻ってきたようで頭痛が生じていた。

辛く苦しい記憶が圧縮されて再来する。


それをエイダは子供の唇を奪ってしばらく弄んだ。

唇が離れると唾液が薄く延びて途切れた。

ぼーっとする子供の頬をぱんっと叩くエイダ。


「ちょっ、、、なにすん…。」

「あら、女の子だったの?大丈夫、そっちもいけるから。」


子供はこの世のものとは思えない一方的な快楽に呑み込まれ、足元に水溜まりを作った。


「おいおい…その子供、どうするつもりだ?」

「連れて行くのではないのですか?」

「本人にその意思があるならな。別に治療だって気紛れだ。」

「あのオーガの功績まで使用したのにですか!?」

「さっき本人も頼んでいないって言っていただろ。俺の自己満足のために助けた。その後、の垂れ死のうがどうなろうかは興味のないことだ。」

「では、本人が着いていくと言えば良いのですね?」

「………。」


子供は痙攣しながら白目を向いている。

何故だか悪いことをした気になっていた。

年頃的には前世の孫と重なる。

自分の子供達もあれくらいの年頃までは素直で可愛かったのだが。


「とりあえずこれで洗ってやれ。」

「かしこまりました。」


水袋を両手で受け取り、流水で体の汚れを取っていると子供は正気に戻った。


「鷲神様…鷲神様…。」


おい正気度が…鷲神?


「おい、鷲神ってなんだ?」

「ひっ……」

「答えなさい。鷲神とはなんの事なの。」

「い、言います!言いますから…」


堕落とは堕ちる快楽、登る地獄とみたり。


「お、俺の。」

「俺?」

「わ、私のっ、母親の生まれた、町に伝わる、伝説の…と、鳥です。」

「母親の生まれた町は?」

「ト、トゥレって言います。」


次の行き先が決まったみたいだな。


「エイダ。」

「はい。」

「トゥレに向かうぞ。支度をしろ。」

「イエス、ユアマイロード。」


エイダside

私の心に変化を感じたのは、あの男を御主人様と心の底から感じるようになったのは、私にオーガから手に入れたスキルオーブを使ってからだった。

この場において限りなく死ににくくなった私は何度もその間際まで追い込まれた。

最初はそうなる度に痛みで頭の中から割れそうな感じもあったが、もうそれも馴れてきた頃には私の心は壊れていたのだろう。

生存の本能が、倒さなければならない相手と叫びと共に体を突き動かす。

千切れる筋肉と砕ける骨格を生きるためと本来致命傷にならないと治らない体を即座に治療する。

私はその流れ込んでくる魔力の中に、御主人様の温もりを感じた。


ああ…私が文字通り死に物狂いで戦っている相手よりもはるかに強い怪物を一蹴した御方。

ああ…その強さとは不釣り合いな常識と慈愛をもつ御方。

ああ…私を支配し、私の世界を破壊し、私の新たな世界を作る御方。


この御方のためならば、私は未来永劫この体朽ちるまで……。


「準備が整いました。」

「すまないな。」

「あー、すまんがそこの人。」


屈強な男を引き連れた壮年の男が声をかけてきた。


「この辺でエリッサという娘を見掛けなかったかね?」

「娘?」

「ああ、身元を引き受けてね。探しているんだ。」

「そうか。確かに最近ここら辺良く歩いている。特徴が分かれば心当たりが出てくるかもしれないな。」

「10歳位の女の子でな、惨いことに片眼と片腕を失くしているのだ。彼女を雇っていた冒険者のパーティーがダンジョンで亡くなってな…行く宛がないと言うことで話が来ていたのだが…。」

「酷い話だ。」

「ああ、現実とは常に非常なものなのだ。おっと、子供も居たのか。これは失礼、お嬢ちゃんお名前は?」

「……ぇ。」

「エル。挨拶くらいしなさい。躾がなっていなくてすまないな。先程の話だがどうやら力になれそうもない。」

「それは残念だ。足を止めさせて悪かった。」

「気にすることはないさ。」


俺達は町を出た。


「…。行ったか。」

「親父?」


この男はシラクでも有数のギャングの1人で闇を巡る力と金を握る者だった。

本来、借金の回収などする様な身分ではないが、部下から見馴れない男女の話を聞き付けて興味本位で声をかけていた。

実はエリッサのパーティーに金を貸した時、彼はエリッサを見ている。

既に片眼は失われていたが、母親に似て顔立ちは整っていた。

一目で分かった。

在りし日の彼女の面影をエリッサに見たのだ。

当時手に入れなかったものの代わりとしては傷が付いていても、心の小さな傷を生め凝りを解きほぐすくらいの役には立つだろう。

幸い、良くに目が眩んだ彼女の雇い主達はダンジョン出ぬ無理に付いた。

後は借金の回収ついでにエリッサも手に入れれば良いと思っていた。


それがどうだ?


再会したエリッサには手や眼が残っており、体も冒険者の荷物持ちをしていた頃よりも肉付きが良い。

そして、あの男女だ。

長らくこの町でこういう仕事をしているが、一言もしゃべらなかったあの女は、間違いなく連れてきた護衛よりも強かった。

下手をしたらこの町の冒険者の誰よりも強いのではないか。

連れてきた護衛が理性的な男でよかったと内心胸を撫で下ろしている。

更にあの男だ。

彼からは何も感じ取れなかった。

強いのか弱いのか、どういう人間なのかさえ良く分からなかった。

それはまるで次元の違う生き物ではないかと疑問に思うほどだった。


「親父?」

「ああ、わかってる。夜の会合までに回れるだけ回るぞ。」

「へい。」

「……金の回りだけ良くなっていれば良いものを。」


男はこの町に近付いている厄種になりかねない事に毒を吐いて町の喧騒に溶け込んだ。


トール

【魔術】ショット(一式・通常型(一番)・二番【三連】・三番【波紋】・四番【臨界】、二式・近接型(一番)・二番【波動】)

【神具】神酒、知識の書、制約の剣

【道具】ディメンションバック(4話)、スマホ(4話)、清水の水袋(6話)、輝きの石(6話)、BPベーシックカタログ(13話)

【重要】森の胡桃(5話)、大鬼の涙(21話)

【称号】森の友(5話)、鬼殺し(21話)

【BP】14400

(東果ての森→ルミット→シラク→ダンジョン『小鬼の巣窟』)


エイダ

【魔法】火魔法(レベル3)ファイアショット

【技能】弓術(レベル5)、蹴り(レベル8)(15話)、採取(レベル5)(16話)、清掃(レベル6)(16話)、房中(レベル6)(16話)、怪力(レベル8)(16話)、高速再生(レベル3)(20話)

【道具】短弓、矢筒、短剣、黒のチョーカー(12話)

【重要】隠者の誓い(12話)

【称号】忠誠を捧げしもの(12話)


エル(エリッサ)

【技能】運搬(レベル3)、サバイバル(レベル3)、陽動(レベル1)

【道具】左眼『眼石(原石)』(22話)、右腕『悪魔の腕』(22話)、右腎臓『人工臓器』(22話)、上行結腸『魔力貯蔵庫』(22話)

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