第22話
「それは前ダンジョンボスを使うということか?」
「それももちろん可能です。ですが、それはあまりに勿体無いかと。」
「勿体無い?」
「はい。お持ちのそれは貴重なモンスターといっていいのです。ワインであれば完熟させるに値する質のものが良好な熟成期間を得ている。また、鮮魚のように釣り上げられて直ぐにしめられることで鮮度を保っている。この様な良質な品が良好な状態でしかも完全な状態で残っているのであれば、収集家として手を付けるというのはあまりにも勿体無い。ですので、提案させていただきたいのです。そのオーガを引き取らせていただく代わりに私が所有している商品からその体にあったものを選ばせていただき、完全な調律を行わさせていただきます。」
邪な気配を感じた。
「…いいだろう。」
「ありがとうございます。」
制約の剣
「お互いの勘違いがあってはアシトにも迷惑をかけるからな。今、書面とこれで約定を定めさせてもらう。」
抑えている力が僅かに漏れた。
「ごくっ…。も、もちろんでございます。」
書面にはこのような内容が記された。
調律師はトールからオーガの死骸を譲り受ける。
調律師はオーガの死骸の対価として、自身が所有するものを提供し、完全調律を行う。
この書類は2部作成し、互いが署名を行い互いに保管する。
「この剣にはこの様な使い方がある。」
署名が済んだ2部の書類を重ねて制約の剣で十字に切る。
それによって紙が切り裂かれることはない。
「これで約定はなった。この約定が破られた時、この紙は今切ったように破れる。」
「……心得ました。」
早速、オーガをこの場に出して調律師に引き渡した。
「おお……。素晴らしい……。」
調律師はしばし眺めていたが、自分の空間にしまうと液体に浸かった腕と大理石のような材質のキューブを取り出した。
「提供させていただきますのは、悪魔の腕でございます。人の腕よりももちろん丈夫で、死に体とは良く馴染むことでしょう。そして、これは眼石と呼ばれる石でございます。これはいれた者と共に成長し、輝きを増す代物となっております。」
「石と言うことは、もし体が焼却された場合はどうなる。」
「はい。持ち主が死んでしまった場合、眼石は星のような輝きを得ることでしょう。」
「…続けてくれ。」
調律師は眼石を子供の顔に合うように球体に加工し、失っていた左眼の上にかざした。
「光を知らぬ石よ、宿主の光と世界の色を示せ。」
眼石は左眼に収まった。
次は肩口から失われた右腕を繋ぎ合わせる。
もちろん、手術ではなく魔法で行われものの5分で繋ぎ終わった。
「では完全調律を行わせていただきます。完全調律とは、肉体の変化に合わせて繋いだものも同様の変化させ、今後の調律を不要とするものです。」
全て合わせて30分もかからずに終わらせた調律師は恭しく頭を下げて帰ろうとした。
ビリッ…。
「……ごくっ。」
「どうやらお前が差し出した対価は等価ではないようだな。」
俺の持つ紙に小さく裂け目が出来ている。
「そ、そのようですね。」
「だったらブループラネットを通して施術料も含んで計算するか?」
「い、いえ、それには及びません。…でしたら、アンドロイドに使用される人工臓器と魔力貯蔵庫をお付けします。この方は既に腎臓と大腸の一部が壊死しているようですので、それと置き換えることが出来ます。」
「なんだか、悪いな。」
「い、いえ、とんでもございません。」
調律師はその作業が終わると今度こそ帰っていった。
後でアシトに眼石と悪魔の腕の値段を聞くと石に50腕に200、それに完全調律を付けると倍となると話が聞けた。
調律師の誤算は本人のオーガに対する評価の高さだった。
ただのオーガだったらここまで価値にはならない。
亜種であることと、初代ダンジョンボス、本人の言う通り希少価値と保存状態から内心で価値を高めてしまった。
その結果思わぬ出費が起きてしまったのだった。
この件に関してアシトから形式的な謝罪があったものの、最終的には当人同士の取引で不備に関してはブループラネットが負うことは出来ないと釘を刺された。
「そういえば、ポーションがあったな…。」
子供に与える前に手の甲に垂らして味見をする。
そこから知識の書からの情報を得た。
「体内魔力を消費して肉体を回復させるタイプか…今飲ませたら命を削って魔力を作ってしまう。」
かといって、ダンジョンの魔力を送ると外部からの流入が成長期の体が魔力を生成しなくなる危険もあるか。
背に腹は代えられない。
供給量を抑えて魔力を送りながら、ポーション飲ませていく。
ポーションの回復効果に加え、人工臓器による肉体正常化が機能し始めた。
循環効率の上昇に合わせて、体内の不純物や老廃物を集約、昇華することで栄養素の代わりに魔力を全身に供給する。
一時的な細胞の活性はポーションの効果を最大限に引き上げ、更に回復活動で生じた不要物も魔力として変換され、傷が癒えると共に盛大な空腹音がダンジョンの最奥に響いた。
「はぐっ!はぐっ!」
食事を与えると誰にも渡さないという強い意思をもって全てを平らげていく。
そうすると今度は人工臓器が消化を促進し、消化物の吸収効率を高め、小腸が吸収した栄養を魔力で一時的に高めていた機能への補填に送り込む。
水分の接種は如実に変化を観察できた。
度重なる無茶によって体内の水分量は限界まで低下していた。
それを成人でも水中毒になる程の量を一気に接種すると皺やひびだらけだった干物のようになっていた体が一気に潤いを帯びる。
「…………あっ、あんた誰だ。」
ここで子供はようやく正気を取り戻した。
トール
【魔術】ショット(一式・通常型(一番)・二番【三連】・三番【波紋】・四番【臨界】、二式・近接型(一番)・二番【波動】)
【神具】神酒、知識の書、制約の剣
【道具】ディメンションバック(4話)、スマホ(4話)、清水の水袋(6話)、輝きの石(6話)、BPベーシックカタログ(13話)
【重要】森の胡桃(5話)、大鬼の涙(21話)
【称号】森の友(5話)、鬼殺し(21話)
【BP】14400
(東果ての森→ルミット→シラク→ダンジョン『小鬼の巣窟』)
エイダ
【魔法】火魔法(レベル3)ファイアショット
【技能】弓術(レベル5)、蹴り(レベル8)(15話)、採取(レベル5)(16話)、清掃(レベル6)(16話)、房中(レベル6)(16話)、怪力(レベル8)(16話)、高速再生(レベル3)(20話)
【道具】短弓、矢筒、短剣、黒のチョーカー(12話)
【重要】隠者の誓い(12話)
【称号】忠誠を捧げしもの(12話)
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