第18話

四十階層。


今までいたトロールもスライム達もいないワンフロアだけの階層。

現在のダンジョンの終点でダンジョンを象徴とするモンスターが座する場所だ。


「…オーガ、しかも亜種……。」


赤鬼。

それが俺の抱いた印象だ。


一式二番【三連】


抑えていない威力の三連を受けて赤鬼はよろめいたが生きていた。


「Gaaaaaaaa!!」


痛みを怒りに変えた咆哮がフロアに響き、その存在力を見せ付けた。

エイダはすくんでしまい、自分の体を抱きしめて震えている。

その反応は正しい。

このオーガはこのダンジョンの象徴にしてダンジョンの力を一身に受ける文字通りの化物。

正攻法を選ぶなら、まずはダンジョンとの接続を絶つのが最優先事項である。


一式四番【臨界】


叫ぶだけで動かない相手に気付けをくれてやる。

オーガの咆哮を越える衝撃でフロアが揺れた。


「下がってろ。」

「言われなくても。」

「今のでも戦意は落ちないか。」


果たして逃げると言う選択肢がない相手を前に喜んでいいものか。

遠目から観察を続けているとオーガの足元から俺の身長ほどの剣が文字通り生えてきた。

それを片手で引き抜くと担ぎ上げたまま走り出す。


一式二番【三連】


左腕で顔と胸をガードすることで止まること無く俺を間合いに捉えた。


一閃


食らっていれば両断どころかミンチにされていたかもしれない。

それを後ろに下がって回避する。

剣旋が起こす剣圧を受けただけで体を切り裂かれたかのように錯覚を起こす。


ああ…少しだが、現人神との闘いを思い出す。


休みの無い荒々しい剣舞はまるで嵐だった。

それを回避する度に剣圧の範囲を把握し、次の動きに繋げていく。

オーガが先程の受けていた左腕の負傷は既に完治している。


「どうなっているの?」


エイダから見たこちらの動きはまるで殺陣だった。

お互いが示し合わせたように攻撃を回避し続けるあの人はどこか楽しそうであり、剣を振るい続ける怪物は怒りを爆発し続けていた。


「もう新しいパターンはないか?なら、終わらせるぞ。」


今までギリギリの回避をしていたのを止めて大きく間合いを取った。


「耐えて見せろ。」


抑えていた体内魔力を開放する。

そして、オーガに向かって指を向けた。

その動きにオーガは本能的に回避できないことを察知して剣を守りに使おうとする動きを見せた。


一式。


この世界に来てから2回目の本来の一式。

それは、俺自身見馴れていた制限をかけた一式とは別物で、防御に動いた筈のオーガは直立のまま姿勢を変えれずにいた。


俺にもオーガが防御の姿勢を取ったように見えて…。


KYyyyyyyyyyyyYYNNN!!!


置き去りされた音がジェット機のエンジン音のような唸りを上げた。

ダンジョン全体に伝わったであろう震動はこの場の空気にも余波が伝わって身体を痺れさせている。


互いに動かない。


いや、片方は動く必要がなく、片方は動くことができない。

そもそも、先程の爆音はオーガの胴体を貫通した事で背後の壁にショットの影響を受けたからだった。

胴体の大半を射ち抜かれたオーガは剣を突き刺し、杖のように体を支える。

背骨は無く、臓器の大半も消し飛んで、僅かに残った肉で体を繋いでいるに過ぎない。

ここがダンジョンでオーガがダンジョンのボスで無ければここで戦闘は終了した事だろう。


「ほぅ。」


超速再生。

先程の左腕もオーガが持つこの能力によって回復した。


「霊体再生は見たことがあるが、肉体をここまで速く回復させるのは初めてだ。」


この手の能力は肉片すら残さずに消し飛ばすか、魔力切れが起きるまで叩き潰すか等の対応策はある。

少なくとも後者であれば、ダンジョンとの接続を絶つことで達成は可能だ。


「はぁぁあ……ふぅぅぅー。」


抑えていた魔力が体内で循環不良を起こしていた。

それを息吹で調え巡りを感じ取る。


「1ラウンドはもってくれよ?」


オーガの回復を待ってから拳を固める。

考えてみればこの身体になってから基本戦闘はしていなかった。

ショットは原則中距離を範囲とする魔術であり、接近戦になれば格闘はさけては通れない。


足に力を流してゼロレンジに踏み込む。

オーガも慌てて剣を振り上げる。

その隙を逃すこと無く、踏み出している左足に蹴りをいれることで太刀筋を鈍らせ、後ろではなく前への回避を用意にさせる。

側面に回り込んでから腰部分に連打を打ち込み、離れ際に側腹部に蹴りを入れる。

オーガの体内から骨を整える音が聞こえ、その後に上半身の力だけで振った剣が弱々しく空を切る。

やはり、あの剛剣を振るうにはオーガであっても全身の力が必要だった。

それも、もはやスタンディングダウンとなった状態で見る影もない。

徐々にオーガの反撃の回数が減っていく。


モンスターに痛みはない?


そんなことはない。

その証拠にオーガの目から黒い液体が一筋流れ落ちていた。


トール

【魔術】ショット(一式・通常型(一番)・二番【三連】・三番【波紋】・四番【臨界】、二式・近接型(一番)・二番【波動】)

【神具】神酒、知識の書、制約の剣

【道具】ディメンションバック(4話)、スマホ(4話)、清水の水袋(6話)、輝きの石(6話)、ポーション(8話)、BPベーシックカタログ(13話)

【重要】森の胡桃(5話)

【称号】森の友(5話)

【BP】14400

(東果ての森→ルミット→シラク)


エイダ

【魔法】火魔法(レベル3)ファイアショット

【技能】弓術(レベル5)、蹴り(レベル4)(15話)、採取(レベル4)(16話)、清掃(レベル6)(16話)、房中(レベル6)(16話)、怪力(レベル4)(16話)

【道具】短弓、矢筒、短剣、黒のチョーカー(12話)

【重要】隠者の誓い(12話)

【称号】忠誠を捧げしもの(12話)

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