第12話

「……恩人よ、終わった、、、のか?」


森の主は倒れ夜空を見上げながら弱々しく声を出した。


「ああ、終わった。」

「……そう、か。…いでよ、我が末子。」


森の奥から小猿がやって来た。


「キキッ。」

「あとは…任せる。」


森の主は指で小猿を一撫でるとゆっくりと手をおろした。


「キキッ……。」


小猿は森の主の指をしばらく掴み頭を押し付けていた。


…帰るか。


「お待ちくだされ、恩人。」

「…。」


ここの猿は皆喋るのか?


「我は先代より賢獣としてこの森を任せられたのである。よって、先代時代からの恩義に報いたいのである。」

「…手短に頼む。」

「…先代からの遺言であるが…ごほん、先代の遺体を引き取って欲しい。先に見せた力なら容易であろう。」

「お前の親じゃないのか?」

「祖先である。だが、このままここにいては森の妖精が回復の見込みが無い先代を生かそうとして森の力は衰退するばかりだ。恩人の善きにはからって構わない。どうか、森から持ち出してほしい。」

「…そうか。」

「それと恩人がこれから何をするかわからないが、もし森の恵みを必要とするなら森の精霊を訪ねてはどうか。本来は人間が出会うのは難しい…だが、他の賢獣の信任も合わせれば道は開けるだろう。と、先代様の遺言である。」

「そうか。なら、貰っていく。」

「それと、カーラを連れていって欲しいのだある。」

「…何?」

「カーラは、エルフの族長と人の娘から生まれた混血。先代の魔法で本人の力の一部を変身に回していた。見よ、魔法は解けているである。」


倒れているカーラの髪の毛が金髪から黒髪に、特徴的な尖った耳も殆ど目立たなくなっている。


「この地に人との契りはある。されど、その橋渡しが出来なければ存在は確かめようがない。部族の失態は種族の失態。それを他の地の部族に負わせることは出来ないのである。」

「それは先代の遺言か?」

「エルフの失態をカーラに拭わせる。これが先代様と我の総意である。」

「本人にはどう教える。」

「…道行きに教えてやって欲しいのである。」

「…。」

「いいだろう。だが、高く付くぞ?」

「かたじけないのである。」


カーラを抱き上げて森から出た。


「…。」

「…。」


カーラは先程の話の途中から起きていた。

生まれ育った森に捨てられ、唯一の肉親を失い、与えられていた役目からも外され、名声は地に堕ちた。

あまつさえ、化物と口走った男に身柄を委ねられている始末であり、ここから逃げ出したい気持ちしかないだろう。

だが、そうしてしまえば本当に独りになってしまう。


孤独という形の恐怖。


それはエルフ、カーラの恐怖の源泉。

母の死に様、役目を与えられる前の自分の境遇、裏切られ全てを失っていった者達の顔。

それらが現実を強く突き付けた。


全てを失ったと言う虚無感。


それは今まで押さえ込んできた感情と抱え込んできた重責の喪失。

心はその空白を何かで埋めようと、考え事をしている男の顔に自分の顔を近付けた。

それは酒に飲まれたように乱れ、無心に何かを求め続けた。

長年役目に支配されていた束縛は彼女にとって無くてはならないものとなっていた。


「おや、お兄さん。」

「ああ、おはよう。」

「全く、困るよ。夜出歩くなとはいっていなかったけどさ。夜でも出掛けるときは一言いって貰わないと。」

「この町とも最後だと思ったら少し遊びたくなってな。」

「これだから、男って奴は…。遊ぶのもいいけどね、これから旅に出るっていうならしっかりと匂いを落としてから行きな。」


すっかりと打ち解けた女将の好意でさっさと体を水で流した。


「じゃぁ、世話になった。」

「またいつでも着ておくれ。」


長らく拠点にした宿を後にして、食料を2人分買い込んでから町の外へ出た。

そこで美人だが無愛想な女が待っていた。

長かった髪は短くなってはいる。

それは彼女にとっての決別の儀式でもあったのだろう。

だが、虚無によってひび割れた心は簡単には埋まることはなかった。


「私を支配して欲しい。」


夜、野宿で火に当たりながら彼女はそう告白した。

孤独から生じた虚無により心が破壊され、何かを拠り所にしたかったのだ。

その為の行為は昨晩していたが、彼女は更なる証を求めた。


「泣き言は昨日の夜に聞いてやった筈だが?それとも鎖の付いた首輪でも付けろと。」

「それが証だというなら。」


森の主よ、本当に高く付くからな。


心の中で小猿に文句をいいながらブループラネットの商品を漁ると黒のチョーカーが出てきた。

商品の説明を読むとまるで商人がこちらの状況を除いているかのような代物だった。

幸い妖狐と賢獣の遺体によりBPには余裕がある。


妖狐→10000BP

賢獣→5000BP


【隠者の誓い】

黒革に銀のアクセントが付いたチョーカー。

隠者が主に忠誠を尽くす証。

幾つかのセキュリティが組み込まれており、反逆は着装者に死を与える。


「後悔ないな?」

「ない。」

「…首を近付けろ。」


BP100を支払って隠者の誓いを購入し、彼女の首に巻いた。

それが気にいったのか起きている時間はずっとそれを触り続けていた。


トール

【魔術】ショット(一式・通常型(一番)・二番【三連】・三番【波紋】・四番【臨界】、二式・近接型(一番)・二番【波動】)

【神具】神酒、知識の書、制約の剣

【道具】ディメンションバック(4話)、スマホ(4話)、清水の水袋(6話)、輝きの石(6話)、ポーション(8話)

【重要】森の胡桃(5話)

【称号】森の友(5話)

【BP】700+15000-100=15600

(東果ての森→ルミット)

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