第9話

それから数日、町を巡った。

カーラが拠点にしているだけあって、一通りの施設が揃っているらしい。

その中で着目したのが神殿だった。

その理由は、ここだけカーラの監視の特に距離が離れていた事とこの世界の宗教事情と言うものが見えてきたからだ。


この世界は七天聖教という宗教が広く布教されており、ある規模を越えた町には神殿が作られている。

神殿では、治療や解毒、解呪を行い、それ行ってもらうには、それに見合った御布施が必要となる。

もし払えなければ、その分神殿に奉仕する事になるそうだ。

七天聖教とは、神話の英雄を祀ったもので全てが同時期の人物ではないそうだ。

最初、神として祀られたのは三柱。

主神、戦神、女神。

主審は審判や公正を司り、戦神は戦いと死を司り、女神は癒しと豊穣を司っている。

その後、三柱を崇める風習ができ始めた頃に、新たな二柱が祀られた。

それが、技神と鍛冶神。

この二柱はセットでこの世界に降り注いできた星から身を持って救ったという逸話が祀られる切っ掛けになり、鍛冶神は技神が使った武器に魂までも捧げて奇跡を起こしたとされている。

その後、薬神と商神が時をおいてその座に入り、今の七天聖教の形となったそうだ。


神官にこれ以外の宗教について尋ねたところ、大きな声では言えないのですがといいながら精霊について話を聞けた。

精霊を信奉するのは辺境の村や隠れ里に住む亜人が多いのだという。

精霊は5種。

火、水、土、森、光。

亜人達曰く、精霊こそがこの世界を造り、その子孫足る我等こそが上位の種であるとのこと。

かつては七天聖教と精霊信奉が衝突し、無用な血が流れたこともあったが、今ではそういったことは殆ど聞かないそうだ。

それはその争いによって互いの住み分けが出来たからだと言う。

仮に人のテリトリーで生活しようとするなら、そこのルールにのっとる必要があると亜人側も理解した。

郷に入れば郷に従えというやつだ。

その為、こういった辺境に近い町には亜人が住んでいることもある。

ただし、七天聖教の過激派は亜人とは人の下にいるものという悪い考えを持っているとの事だった。


「エルフ、カーラはこの町に詰めるエルフの二代目と聞きます。エルフと初代領主はこの町を作るときに互いに協力を約束し、その証としてエルフにも居住権を認めております。」

「それはこの町だけですか?」

「裁量権は領主様にありますので。…まぁ、領主様も初代様の血の盟約があるため仕方なくとは言っておりましたが…。」

「そうですか。今日もありがとうございました。」


幾らかの金をテーブルに置いて、神官も顔色を変えずに懐に閉まった。

御布施は本来なら白い皿に置くのが決まりなのだが、神官も帳簿に載らない金となるのだろう。


「そろそろか…。」


明日、まとまった金を用意して次の町に行くことにした。

話を聞いていると正式なこの国の地図は首都にしかないかようだが、口伝えにシラクという町が中央よりの大きな町と言うことがわかった。


「とーる、さんっ!明日はどうするのかい?」

「はい、継続でお願いします。」


2日目以降、カーラと食事を共にすることはなくなっている。

監視をするのであれば予定を聞いた方がいいと思うのだが…それは彼女のポリシーに反するらしい。

まぁ、俺を監視するためなら、俺が町の外に出れば自然と着いてくるだろう。

翌朝、用もなく街道を歩いて暇を潰した。

当然、カーラも少し間を空けて着いてくる。

そうしていると案の定、盗賊が俺達を取り囲んだ。

前回の倍はいるだろう。

しかも何人かは大きめの盾を持っていて、盗賊と言うよりかは傭兵のように思えた。


「警告する。死にたくなければ失せろ。」


カーラは冷たく言い放つが、賊は無言で包囲を狭めていく。

その連携はもはや盗賊のものではない。


…宛が外れたか。


カーラが狙われているのはわかっていた。

彼女自身もわかっているみたいだが、彼女の実力と装備では一々殲滅するのは骨が折れる作業となる。

それを盗賊のリーダーを潰して混乱を作る事で状況を打開してきた。

しかし、今回の相手は誰がリーダーなのか悟らせずに全員が額の守りを堅めている。

不思議なのはそれらが全て真新しいというところだろう。

いくら傭兵でもこのために装備を新調することは財政的な負担が大きいはずだ。


ということは、町の領主がカーラを捕まえたがっているというのは間違いないようだ。

その為についに本腰をいれたというのがこの襲撃の事情なんだろう。

傭兵であれば、犯罪者としての登録はされていないかもしれない。

そうなれば懸賞金がかかっておらず、旨味はない。


「こういう場合はどうなる?」

「…負けた奴の泣き寝入りよ。」

「それは言い言葉だ。」


一式。


盾を構えた傭兵の後ろには2人の傭兵が隠れ、スリーマンセルを組んでいる。

その数は約20。

攻めるにしても逃げるにしてもどちらでもいいが、精々調整の的代わりにはなってくれよ?


カーラside


…こいつは何なんだ?

こいつの魔法は何度か見ているが、詠唱も精霊喚起も無しにこれだけの威力がどうして出せる?


盾を持った賊を盾事粉砕し、その勢いで後ろの2人を吹き飛ばしている。

盾を持っていた者は両手の原型が辛うじて残っている程度で後ろの2人は盾が砕けた木片が全身に突き刺さったり、前にいた仲間に押し倒されたりした事で動けなくなっていた。


「15、14、13…。」


奴に指を向けられた賊は漏れなく吹き飛んでいった。

最初は何をされていたかわかっていなかったが、その行為が死の宣告であることを理解し始めると足が震え始める。

盾を地面に固定して受け止めようとするものも現れたが、そのような工夫を小細工と嘲笑うように蹴散らしていく。

とある3人組は恐怖から後ろの2人が盾から離れて逃げようとしたが、後ろからあれをもろに受けて即死した。

その返り血を浴びた盾持ちは足の震えが全身に広がり、直ぐに盾を持てなくなっている。


「5、4、3…。」


既に賊の戦意は失われていた。

しかし、奴は降伏すら許さずに手を上げる前に潰していく。


「1、終わりだ。」


…長よ、貴方は私にあれを止めろと仰ったのか?


トール

【魔術】ショット(一式・通常型、二式・近接型)

【神具】神酒、知識の書、制約の剣

【道具】ディメンションバック(4話)、スマホ(4話)、清水の水袋(6話)、輝きの石(6話)、ポーション(8話)

【重要】森の胡桃(5話)

【称号】森の友(5話)

【BP】700

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る