第4話

「何をした?」

「何もしておりません。…強いて言うならば、トール様に合わせて気を高めてはおります。」

「気?」


おそらく魔力のことを言っているのだろう。

しかし、俺が魔力の垂れ流しなど…していた。

いや、癖というか、射ち終わったの魔力管理は徹底していた筈…。


「意識の問題かと。転生時には普段出来ていたことが出来なくなっていることも少なくありませんので。」


人差し指から垂れ流されていた魔力を意識的に止めて、漂う魔力の残滓を息を吹き掛けて霧散させた。


「アシト、さん。」

「アシトで結構でございます。」

「…アシトさん、あんたならこの怪物はどれくらいで倒せた?」

「5分、あれば同じ結果には出来たでしょう。ただし、採算が取れませんので好んで闘いはしなかったでしょう。」

「なるほど。なら、そいつの件は任せようか。」

「ありがとうございます。順番は代わってしまいましたが、これはお近づきの印です。」


アシトは革製の鞄を取り出した。


「ディメンションバックというものです。この世界にもマジックバックというものがございますが、似て非なるもの。トール様、この部分に魔力で御名前を頂戴できますでしょうか。」


漢字で『到』と書いた。

70年ぶりに漢字を書いたが忘れていないものだ。


「これでこの鞄はトール様のものです。如何なるものがこの鞄を漁ろうとも偽装の中身しか見ることは出来ません。トール様には説明不要ですが、他の効果として触れたものをこれが管理する空間に送ることが出来ます。生物、非生物問わず収納は可能です。ただし、生物には本人の許可が必要なうえ、中は真空のようなもので生き物が生きていられません。」

「なるほど。」


キマイラに触れるとその場から消え去った。


「それと…トール様にはこれがよろしいですかね。」

「スマホ?」

「それの形を取った通信機気です。私に連絡をしていただくのは勿論の事、独自のアプリケーションから品物の買い取りや商品の販売をこれ1つで対応可能です。」

「ネットショッピングみたいなものか?」

「はい。その認識でお間違えありません。どうぞ、お試しになってみてください。」


スマホの電源を入れ、しばらく待ってからホームボタンを押すとアプリが通話と電話帳、メモ帳のアプリと見馴れないアプリが入っていた。


「ブループラネット?」

「はい。そちらを開いていただくとディメンションに入っている品物が表示されていると思います。」

「確かに。」


キマイラのどや顔の写真と共に下には1000BPと表記されている。


「今回のキマイラはまだ成熟しておりませんでしたので1000BPで引き取らせていただきます。」

「なるほど。」


引き取りに了承する画面を押すと俺のスマホからキマイラが居なくなった。

その代わりにカタログという欄が表示される。


「カタログは所持しているポイントで交換できる物のみが表示されます。交換後はトール様のディメンションに転送されるようになっています。」

「わかった。後で交換するものを考えさせてもらう。」

「簡単ですが、これで説明を終わらせていただきます。それで、この現地人は如何しますか?」

「キマイラや俺達を見られたのは問題ないのか?」

「トール様は問題ないかと。」


それ以外は問題があるということか…。


「差し支えなければ私が処理いたしますが…。」

「いや、俺がやる。」


制約の剣。

知識の書と合わせて貰った物で魔力を物質化する力の一種、込めた魔力に応じた制約を込めることが出来る。


知識の書から適した方法が提示され、それに従い現地人の額に手を当てる。


「お前は先程見た事を思い出すことが出来ない。」


必要魔力量を算出し、相手の精神に楔を打ち込む。


「見事なお手前です。それでは私はこれにて失礼を。」


アシトはそう言うと風景の継目に消えた。


「?」


早速、スマホに連絡があった。

メッセージがアシトから着ていた。

内容は先程の手間賃と言うことで100BPとアイテムを贈ってきた。

アイテムはクリーンのスクロール。

それを認知することで知識の書が使い方を示し出す。

どうやらこのスクロールは魔法名を唱えるとそこを中心に半径3メートルの汚れを洗浄するものだった。


「…なるほど、出来る男のようだ。」


気付かなかったが現地人は失禁していた。


「クリーン。」


俺も女性が汚れているのを放置するほど人を辞めてはいない。

生き物の気配も無いし、このまま放置するとしよう。


「そういえば、キマイラはこちらの方から着ていたな…。」


俺はキマイラがいた方向に向かって森を進んだ。

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