第3話
ショットは、魔術の基本である魔力操作の延長のようなものだ。
魔力操作の基本は、開放、循環、変質、放出で体内には魔力を生み出す魔力炉という霊的なものがあり、普段閉鎖されている。
それを意識的に開放し、魔力炉から体内を巡る霊的な道である魔力回路を巡り体内を満たす。
魔術には適切な魔力放出量と圧力が必要らしく、体内で圧力を操作する必要がある。
魔力圧を調整された魔力を体外に放出するのが魔力操作の基本となる。
後は持っている術式と適合することで魔術が発生するのだが、俺はどんな魔術の術式にも適合しなかった。
「ここが、新しい世界か。」
ビジネスパートナーに見送られ、俺は緑豊かな世界に足を踏み入れた。
その時に現人神に勝った報酬を幾つか貰っている。
「確かに身体が満ち溢れている。」
先程、飲み交わした酒は神酒(ソーマ)という死者すら甦る酒で、飲みすぎると怪物になり果てる代物だったそうだ。
その影響か使い物にならなくなっていた身体事霊体化している。
放置されれば自我を失うかもしれないが、俺の入れ物として現人神の肉体を器として貰い受けた。
既に御霊は俺が破壊していたことと、神為的に作られた肉体であったため穢れはなかったことで馴染むのに時間は要らなかった。
「怪異か、ちょうどいい。」
森から出てきたのは四足の大型獣で…。
頭からない筈の知識が流れ込んでくる。
まるで電子機器にデータをインストールしているような感じた。
これは賭けに負けた知識に関する神が差し出した知識の書の効果で、ビジネスパートナーは必要ないからと俺にくれたものだ。
それによると奴の名前はキマイラ。
この世界には本来いない筈のモンスターということだ。
「これもパラドクスの影響か?まぁ、いい。本来居ないものならやり過ぎても構わんな。」
キマイラもこちらを視認する。
互いが戦闘状態に移行し、こちらが動き出しが早い。
現人神の時とは違い、しっかりと見える相手ならば俺の眼が役に立つ。
これは1度目の転生の時に手にしていたもので簡単に言うと身体にある力の強い場所と弱い場所が視覚化されるというものだ。
これがあったから魔術1つでも落胆しなかったと言っても良い、俺の細やかな才能である。
「一式。」
右手の人差し指をキマイラに向け、親指に中指をかけるようにして力を込める。
そして、キマイラが咆哮を挙げる前に指の音が鳴った。
「はぁ?」
それから間もなくキマイラは地面に倒れた。
まだ、一式だけしか試していない。
言わば挨拶程度の魔術、ここから二式、三式と…。
「素晴らしい。暴れん坊のキマイラをこうも容易く仕留めるとは。」
高級スーツを着た男が現れ、思考を遮られる。
「何者だ?」
「敵ではございません。怪しいとは存じますが。」
両手を上げて敵意がないことをアピールしている。
「いいだろう。何のようだ?」
「ありがとうございます。我々が争っても何の特にもなりませんので。私は次元渡りの行商人アシトと申します。」
「次元渡り?行商人?」
「はい。世界を渡って話がわかる方と取引をさせてもらっております。」
「と言うことは、俺は眼鏡に叶ったと言うことか。」
「はい。トール様の事はさる御方から私のスポンサーにお話をいただきまして、私が担当させていただければと思い参上いたしました。」
名前を知っていると言うことは、間違いないか…。
「わかった。それで、どういう取引を望むんだ?」
「はい。今倒されましたキマイラ。これを引き取らせていただきたいと思います。それはかの大災害において散々になったこの世界にはあってはいけないもの。そう言ったものを回収する必要があります。」
「それは違う依頼人からか。」
「はい。」
どうやらこのパラドクス、大災害の後始末にはビジネスパートナー以外にも違う神様が関与しているようだ。
ドサッ!!
木から何かが落ちた。
「現地の方のようですね。」
「ひぃっ……。」
アシトが手を差しのべようとすると近付いただけで卒倒した。
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