第2話

「ここは……。」

「良く着たな。人の身にして神に近づきし者よ。」


インチキ臭い茶の間だった。

庶民風を装いながら、家具や茶器が超一流品であるかのような違和感がそこにあった。


「ん?こういうのは嫌いか?」


パンッ、と男が手を叩くと風景が変わり社長室のような雰囲気変わる。


「……あんたは?」

「いや、こうではないな。」


もう一度男が手を叩いたところでバーのような風景に変わった。


「ふむ、これでいい。まぁ、座れよ。」

「…。」


カウンターの隣に腰を下ろすといつの間にか男の手元にあった一升瓶からグラスに酒を直に注いだ。


「おっとっと、溢すと余計なのがきちまうからな。駆けつけ三杯、だっけか。お前の国の言葉だろう?」


男は乾杯もせずに自分の分を飲み干した。


「…!!。」


嘘だろ?

これは前の地球の日本じゃねぇか!?


今の世界では酒というのは地方の色が尖った代物になっていて、同じ日本酒でも品種によって飲める飲めないが出てくるし、世界中で作られているビール何かは日本酒とは比べられない程当たり外れがある。


「はっはっはっ、旨かろう旨かろう。神も口説き落とす程の酒ぞ。この世界の酒は好みに合えば良いが、それ以外はどうにもならんからな。ほれっ、もう一杯。」


注がれた酒を今度は味わって飲んだ。


「良いのみっぷりだ。この酒であれば当然だが、神の試練を乗り越えた者にはそれ相応の報酬があって然るべきだからな。」

「…神の試練。」


そうだ、俺は奴に拳を突き付けた後、意識を失って…。


「おうよ。最後の一手の前に勝負はついていたがな。危なかったぜ?あれが作りたのて現人神だったから良いものの、少し経験を積んでいたらやばかった。」


作りたての現人神?


「でも、おかげで俺は独り勝ち。いやはやいやはや、賭けになるまいとたかを括ったのが失策だったな。見事な一念を見せて貰った。」

「…俺の一念はどこまで通じた?」

「神の意識に触れる程度といったところだ。まぁ、あれは中級神までの討伐を想定した対神兵器のようなものだったからな。対人間という意味では性能を発揮しきれなかった部分はある。それでも、相手の戦力を見極め、キルゾーンの確殺力。そして、それを見通す眼力。…痺れたよ。思わずあんたのベストバウトを探すくらいには痺れた。」

「…最期の闘いこそ、人生最良の一戦だった。」

「そうかな?まぁ、個人差はあるとは思うがね。驚いたのはその過程であんたがあの事件の関係者だったということだ。」

「事件?」

「パラドクス。世界の境界が破壊され、時間軸の乱れと世界の混同が起こった事件だ。」

「……それは。」

「もし、興味があるなら話してやる。ただし、これを聞いたらあんたにも協力してもらう。…どうせ、今世には未練は残してこなかっただろう?」

「……聞かせてもらおう。」

「良い返事だ。」


男は冷たい水をさっと注いで置いた。


「事の始まりは神格を持ったもの達の反乱だった。この業界は人気社会でな後進の、若手にはかなり辛いんだ。ただし、下級神やそれよりも下は生まれ易く滅びやすい。そういった奴等をまとめ挙げた奴が幾つかの世界を勝手に作って新たな勢力を作ろうとした。でも、でもだ。それは今までのルールに反する行いであり、神様って言うのはたいていそう言うのには煩い。なら、ばれずにやろうってことになったが、数が数だ。必ず足が付く。神様と名の付く奴は自分の顔に泥を塗られたら世界の果てまで追いかけるからな。だが、奴はそれを利用した。おそらく長年の準備もあったんだろうが、仕込みを使ってできる限りの世界を巻き込んで境界を破壊した。破壊された世界は文明や人が入り交じり歴史の改編を世界に余儀なくさせる。その混乱を使って目を付けていた世界に下級神やらを人として送り込んだ。それに関与していない神も神で自分の世界や懇意にしている世界を守った。」

「その結果があれだったと?」

「勘違いするなよ?お前の世界はかなりマシだった。場所によっては世界そのものを滅ぼしたところもある。いや、今になれば1度リセットした方が良かったのかもしれないが、俺達の対応の時間で奴等もまた偽装の時間を作った。はっきり言えば犯人の特定はもう不可能だ。」


男は水を飲み干した。


「ただし、けじめは付けさせる。さっき闘った現人神がそれようの人材だった。疑いのある世界に送り込んで、片っ端からシラミ潰す方針を考えていた。……あんたを見るまでは、な。」

「何をさせたい?」

「いや、何。自分達の都合が良いように、更なる混乱を作るために力を蓄えている奴等に取ってどんな嫌がらせがいいのかと考えたんだ。今、奴等にとって一番の嫌がらせ。それは蓄えた力を失うことなんじゃないのかってな。だが、ただ力を奪っちゃ意味がねぇ。俺達も今のバランスが崩れることは避けたい。ならば、どうするか。こう考えれば簡単だった。自分達の尻は自分達で拭かせればいい。…神と言っても万能ではねぇ。必ず尖った性能をもってから徐々にその範囲を広げる。そこを他の世界と繋げて違う世界と……力の交換とでも言えば良いか。支配権をもたないエネルギー、要は異物を送り込まれればそれの対処に力を使わなければならないし、溜め込んでいた力そのものも外に放出するから弱体化は避けられない。」

「良くわからんが、そんなことをすれば黙ってないんじゃないのか?」

「そこよ、狙い目は。奴等が尻尾を出せばそれでも良し、詫びを入れてくるならそれで良し、排除しようとしてくればなお良し。ボコって弱ったところをはかせていもずる式に主犯を取り押さえようって方針だ。」

「矢面にたつ奴に荒事は避けられないな。」

「まぁな。だが、それなりの支援は約束するぜ?これでも一応神だからな。」


男は残っていた酒をグラスに注いだ。


「やってくれるか?」

「やれ。じゃないんだな。」

「ああ、お前は言わばビジネスパートナーだ。無下には扱わんよ。」

「…どうやら三度目の人生も楽しくなりそうだ。」


グラスを持つと男もグラスをもって近くまで寄せた。


「では、新たな人生の門出を祝って。」


その場に美しい音色が響いた。

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