第319話 華辻 4

 「華辻はここまでです。この先、少しばかりご協力いただくことがございますが・・・」


 「構わないよ。彼に害がないのならね」


 小男に応えるあおのあまりに歯切れの良すぎる言葉に、真也しんやしょうは顔を見合わせた。


 それはそうだろう。

 社交辞令でも建て前でもいい。

 こんな時くらいは『彼以外にも!』害のないよう、ぜひとも確認してくれるべきだと二人が心から思うのは当然のことだ。


 とはいえ、それを口に出してみたところで空しい返答が待ち受けていることは分かり切っている。


 真也しんやあおに無駄な苦言を述べることなどすっかりあきらめ、自分たちの身の安全を確認すべく小男に問いかけてみることにした。


 「あの・・・。協力って一体、どんなことを?」


 「難しいことではございません。常世郷の安寧を守るため、ここで過ごされる皆様には一つの契約をお願いしているのです」


 「契約?」


 「はい。滞在される全ての方に、御印となる石を一つ、預けていただいております。・・・上を、ご覧ください」


 真也しんやたちが外へ顔を出して見上げると、夜空にたくさんの星をちりばめたような美しい情景が変わらず広がっている。


 彼らのよく知る空と違うのは、ここに浮かぶ星々は全くもってじっとしている様子がないということだ。


 ほとんど動かないものもあるにはあるのだが、多くのものは常に揺れ動いて落ち着くことがない。


 「あれらは全てここにいる者の印なのです。この地はここに祭られているお方によって我らに与えられた拠り所。不届き者の横行を許すわけにはまいりませんので」


 「つまり、ここにいる者たちは全て監視されているっていうことかな?」


 あおの言葉に、小男は瞳を鋭くさせる。


 「相違ありません」


 「ずいぶんと潔いね」

 

 「ここまでお傍にご一緒させていただいたのです。この期に及んで愚行を犯すほど愚か者ではないと自負しております」


 あおはくすりと笑うと海神わだつみを腕に抱きゆったりといすに腰をかけた。


 「今の、どういう意味?」


 しょうが長い髪を手で流し、小声で光弘みつひろに問いかけると、肩の上で酷くつまらなそうにゆいが口を開いた。


 「あの男は金に目がくらんだただの愚か者ではないということさ。あおの奴はまともじゃない。多くの者にとって、あれとともに過ごすことは爆弾を抱えて歩き続けるようなものだろう。あおは単純。怒らせれば後が面倒だ。それを正しく見破ったから、嘘や隠し事なんて馬鹿なことはしないと宣言した」

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