第309話 外店 12

 「目玉を?」


 「空中に?」


 真也しんやしょうがごくりと喉を鳴らし、同時に問いかける。


 あれだけの騒ぎがあった直後だというのに、何事もなかったかのようにすっかり遊びに没頭できてしまう妖鬼の子供たちには全くあきれたものだ。

 しかも、その遊び方ときたらどうやら一筋縄ではいかないものらしい。


 都古みやこ光弘みつひろは何とも言えない苦い表情を浮かべ、顔を見合わせた。


 真也しんやたちの様子を興味深げに見つめながら、小男が続きを口にする。


 「左様でございます。奴らの目玉は落下する際、柔らかく開いておかしな動きをしますから、それを鳥が虫か何かと勘違いして食べるのです」


 しょうは左手でガシガシ頭をかき回しながら、低く呻いた。


 「色々と突っ込みたいことは多いんだけどさ・・・・・・。つまりその捨目魚しゃもくぎょってやつは、自分の目玉を空高く放り投げて、鳥の餌にして喜んでるってこと?」


 しょうのあけすけな言葉に小男は笑う。


 「まさか。奴らの目玉は即効性の猛毒なのですよ。それを口にし落ちてきた鳥のほうを奴らが喰らうのです。子供らのように目玉を摘んで遊ぶのも一興ですが、彼らの派手な食事風景を眺めるのもなかなか乙な物ですぞ」


 ごくりと生唾をのみこんでから、真也しんやは恐る恐る問いかける。


 「でもさ。そんなことしてたら、自分の目玉が無くなっちゃうだろう?目が見えなくなったら困るんじゃないか?」


 小男は「あぁ」と言って小さく笑った。


 「心配はご無用でございます。奴らの目玉は腐るほどたくさん頭の上に張り付いておりますから。それに、吐き出せば吐き出した分だけ、見る間に新しいものがぶくぶくと泡のように沸きだすので」


 男の説明に真也しんやたちはぞっとして、再び顔を見合わせた。

 鳥肌が立ったのか、都古はさすさすと二の腕を何度も撫でている。


 さも面白げに真也しんやたちの様子を眺めていた小男だったが、手にしていた剛鬼のつのを丁寧にしまい込むと、力なく口を開いた。


 「石段通りはあおの領域であるとはいえ、決して安全とはいえない場所ですから、子供らはこの外店で遊んでいる者がほとんどなのです。攫われる心配がない分、いくらかここの方がましに過ごせるのでしょう」


 男の言葉に「へぇー。」とあおがうなずいている。


 「確かに。今までボクが石段通りで見かけた子供は一人だけだったね」


 「あぁ・・・。その子供は少しばかり他と事情が違いますゆえ。あるお方が大切にされている特別な子供なので、むやみに手を出すような愚かな輩はいないのですよ」


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