第307話 外店 10

 「随分と回りくどい言い方をするね。大方、きみの根城がどこなのかを、奴に教えでもしたんだろう。」


 「根城?」


 ゆいの言葉に、真也しんやしょうは二人で重ねてそうつぶやいた。

 訳が分からないという言葉をきれいに張り付けた二つの顔を見合わせる。


 「あの場所が誰の住処なのか。それを知らない者など、冥府にはいない。きみの正体を知ったのだとすれば、こんの先ほどの態度も、当然うなずける。」


 「そういうことか。」


 真也しんやたちは4人そろって晴れやかな視線を交わした。


 あおという男が、突き抜けてしまうくらい親しみやすい性格をしているものだからうっかり忘れてしまっていた。


 考えてみれば、彼は最強とうたわれる双凶の妖鬼のうちの一体なのである。

 彼を知らない者など、なるほど確かにいないはずだ。

 となれば、彼の住んでいる場所も当然のごとくこの世界では知れ渡っているのだろう。


 あおがその場所をこんに伝えたのだとすれば、当然彼の正体はこれ以上ないほど明らかになったのだから、双凶の妖鬼を前にしていると自覚したこんが、思わずあおの前に跪いてしまったとしても、なんら不思議はないというわけだ。


 「確かに、あの場所はとても目立つだろうね、ゆい。」


 柔らかく口角を上げ、嬉しそうに目を細めているゆいの耳元をなでながら光弘みつひろが答える。


 「光弘みつひろ、見たことあるのか?」


 光弘みつひろの言葉に、都が驚いて声を上げた。


 「・・・うん。黒を匿ってもらっているから。」


 ひっそりとしたその声に、ようやく真也しんやたちは光弘みつひろの薄い色の瞳を寂しさというとても小さな波が揺らしていることに気づいた。


 「ごめん。」


 思わずそんな台詞が真也の口をついて出る。


 「真也しんや。・・・俺、みんなとこうしていられるの、嬉しいよ。そんな顔しないで。」


 光弘みつひろの笑顔は偽りのない自然なものだったから、真也しんやたちはほっとしてわずかに表情を緩めた。


 だがそれでも、真也しんやの胸にはどうしてももやもやとした塊が付きまとって離れない。


 気づけなかった。

 あんな状態の黒を置いたまま、光弘みつひろが心から楽しく過ごしてなんていられるわけがないのに。


 そんな簡単なことにすら思い至らなかったと思うと、真也しんやしょう都古みやこも、あまりのふがいなさに言葉が見つからない。


 三人の顔を見つめ、光弘みつひろは困ったように小さく笑った。


 「心配しないで。一緒にこれなかったのは残念だけど。黒とはいつでも繋がれるんだ。・・・それに俺一人帰ったりなんてしたら、黒をきっと傷つけてしまうから。」

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