第304話 外店 7

 「やりすぎだ。」


 「そう?」


 店の奥まで吹き飛び、壁に叩きつけられて意識を失った大男を見ながら、真也しんやは今度こそはっきりと口にした。


 だが、当のあおは何食わぬ涼しい表情かおである。


 「そうだ。忘れるところだった。」


 何かを思いついたように、大男へ歩み寄ると、あおは先ほど巨大こんに返した板を再び借り、それで男の横面をペシペシ軽く叩き始めた。


 「おい。寝るなよ。まだ金をもらっていないと言っただろう。」


 幾度か呼びかけてみるが、完全に伸びてしまっているようで、男は全く動く気配を見せない。


 「起きないみたいだ。」


 そう言い捨てるあおに、海神わだつみは素直にうなずいている。


 真也しんやたちは「あんたが気絶させたんだ!」と大声を上げたい衝動を必死におさえながら、辛うじて同じようにうなずいてみせた。


 面倒くさそうに息を吐き、あおは後ろに控えていた小男を振り返る。


 「さて、どうしたものかな。」


 「そうですな。こいつはどうやら剛鬼の類のようだ。ならばここに・・・」


 小男が、伸びている大男の頭頂部辺りを探ると、髪に隠れ子供の拳ほどの大きさの黒く光るとがった石のようなものが顔を出した。


 「おぉ!これは素晴らしい。」


 「なるほどね。つのか。」


 「店の修理のこともありますから、いただいたところで取りすぎということにはなりますまい。」


 店内を改めて見回すと、大男がなぎ倒した卓やなんかがそこいらじゅうに散乱し、酷い有様だ。


 「実は外店の仕切りは私の職務でありまして。」


 そう言って頬を緩めるこの男は非常にしたたかなものである。


 「きみがそう言うのなら、これで手を打とうか。君達もそれで構わないかな?」


 あおの問いかけに、こんの一団もそろって大きくうなずく。

 それを確認したあおはすぐさま角の根元に指を走らせた。


 まるで豆腐か何かでも切ったように、するりと角が切り離される。


 途端に、大男はカッと目を見開いた。


 「おまえ!ここまでするのか!」


 どうやら自身の一部である大切な角を斬りおとされた衝撃で気を取り戻したとみえる。

 大男は、ぶるぶると震えながら、見ていて可哀そうになるほど酷く取り乱していた。


 あおは心底驚いた様子で口を開く。


 「きみは彼を汚そうとしたんだ。このくらいで済むのなら安いものだろう。」


 そう言って海神わだつみを力強く腕の中に引き寄せる蒼に、大男は声を荒げて反論した。


 「俺がいつ、そいつを汚そうとした。そいつは自分から飛び出して来たんじゃないか!」


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