第301話 外店 4

 あおはそう言って真也しんやたちを振り返った。


 だが、真也しんやたちにしてみればこんな非常識な力を見せつけられて、やりすぎたかなどと聞かれても、本音を答えるべきかどうかすらわからない。


 あおの目が怒りに染まり全く笑っていないことなんて、仮面ごしでも容易に想像がつくのだ。

 あえて本当のことを言ってやるべきではないだろう。


 そうでなければ真也しんやたちはとっくに答えを返している。


 見るからに強靭な大男のひざが紅く染まっていく様を見れば、答えるまでもないではないか。

 答えはひとつ、「やりすぎに決まってる!」だ。


 真也しんやたちが少し呆れて顔を見合わせていると、光弘みつひろの肩の上で気だるそうに身体を丸めながらゆいが口を開けた。


 「殺すなよ。殺生は禁止だそうだ。」


 「大丈夫。ちゃんと聞こえてるよ。殺さなければいいんだろう。」


 なんだか少しばかり恐ろしい会話が聞こえたようだが、真也しんやたちは聞こえないふりを決め込むことにした。


 この連中を止めるのは大概馬鹿馬鹿しいことだと分かっていたし、正直真也しんやたちも泣いているこんを見てから拳を固く握りしめていたからだ。


 「それならこうしよう。この店の決まり通りに勝負をしようじゃないか。・・・きみに、その度胸があればの話だけどね。」


 「貴様。なめているのか。」


 「おぉ怖。そう睨むなよ。そんなつもりはないんだから。・・・虐めたくなっちゃうだろう。」


 「いい加減にしろ。殺すぞ。」


 「何を言ってるんだ。聞いてなかったのか。ここでの殺生は禁止だよ。・・・こんなにすぐに忘れられるなんて。きみ案外大物かもしれないね。」


 あおの言葉と笑い声とに煽られた大男の怒りは天にも届くほどだ。


 既に膝の痛みは忘れたようで、ぎりぎりと歯を食いしばりすっかり闘志満々であおの前に立ちふさがった。


 あおは楽し気に笑うと、こんたちに顔を向けた。


 「ここは君達の商いだ。できるなら誰か、ボクを雇ってくれると嬉しいんだけど。その方がここの道理に適っているだろう?どうかな。」


 あおの言葉に懇たちが一斉に手を挙げる。

 そんなこんの群れを悠然とかき分け、あおの前に巨大懇がのっそりと立った。


 「きみがボクを雇ってくれるのかな。」


 巨大な懇はこくりと一つうなずき、板を一枚と筆を一本あおに渡した。

 右端に丸みを帯びた漢字のような模様が描かれている。


 看板なんかにも数字と共に同じ模様が書かれているところを見ると、どうやら金銭の単位が描かれているようだ。

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