第295話 常世郷 2

 瞳を飾る煌びやかな星の正体は、無数の提灯だった。

 ここでも石段通りの景観を保っているのだろうか。


 石を削って作られたであろう、長く続く巨大な空間はあまりにも広く、もはや一つの街と呼べるほどだ。

 艶やかな無数の建物が石壁に器用に埋め込まれており、軒下を美しい提灯の光が戯れている。


 照射殿の造りに似せてあるのだろう。

 建物は全て淡い光を纏っており、今まで青白く狭い通路を来たせいなのか、ほんのりとした温もりさえ感じられ、真也しんやたちをほっとさせた。


 何かしらの術なのか、突き抜けるほど高い天井一面には輝く星々がちりばめられている。

 大小の星々は、じっと震えているものもいれば、そわそわと落ち着かない者もあり、その動きはいたって自由だ。


 正面に位置する巨大な建物はひときわ瀟洒しょうしゃを極め、その入口は煌びやかでありながら、一つも品を損なう事なくどっしりと構えており、いっそ高貴な印象をうける。


 真也しんやは何となく少し背筋をのばし、姿勢を正した。

 気のせいだろうか、ここの情景は華やかではあるものの、石段通りのものよりも数段上品で大人びているような、澄ました気配があるのだ。


 そのわずかな動きで、都古みやこは未だに真也しんやの腕に手を絡めていたのだと気づき、「すまない」と口にしながら慌てて腕を離そうとする。


 「離れないで。このままでいい。」


 真也しんや都古みやこの手の上からそっと手を重ねた。


 前を歩く海神わだつみが、小さく首を傾け後ろを振り返る。


 仮面の下の視線を追うように真也しんやが振り返ると、巨大な扉は、開いた時同様、音もなくしまり石の壁に溶け込んでいくところだった。


 入口に続く広場には隙間なく夜店が立ち並んでおり、荘厳な建物と対を成すように騒がしい活気や歓声であふれ返っている。


 「すごい人混みだ。離れたらはぐれるかもしれない。」


 真也しんやがそう言うと、都古はなぜか俯いてしまった。

 そんな都古みやこを元気づけるように、真也しんやはハハッと明るく笑い、自分より随分と身体の小さい都古の頭をぽんぽんと撫でてやる。


 「大丈夫。もしはぐれても、絶対に探し出すから。・・・言ったろ?一人にはしないって。」

 

 真也しんやの言葉に、都古みやこは小さくうなずいた。

 顔を上げるが都古みやこは、真っすぐに真也しんやを見つめ返してくる。


 「私もだ。」


 突然向けられた都古みやこの瞳は、ドクリと鼓動が跳ねるほど、あまりにも強い光を帯びている。

 真也しんやはわけもわからないまま胸をざわつかせ、こくりと乾いた喉を上下させた。

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