第269話 成長

 「ああ。」


 海神わだつみの返事は短かかったが、深みのある柔らかな声は温かみに満ちていた。

 

 「よく、こんなことを思いついたものだな。」


 「・・・これでしょ?実は、二人がいなくなってしばらくしてから、ゆいがヒントをくれたんだ。」


 「ゆいが?」


 「うん。身体能力が追い付かないなら、力を道具に変化させてみろって。・・・けど、やっぱり動いている毛むぐりを捕まえるのは難しかったから、俺の妖力を飛ばして何匹が気絶させたんだ。それを逃がさないで囲う練習をしてみたらどうかと思って。・・・・・・ずるして捕まえたから、こいつらは捕獲数としてはノーカウントってことで。」


 心底感心した様子のあおは、苦く微笑んでいる真也の黒髪をくちゃくちゃにかきまわしながら口を開いた。


 「なるほどね。それにしたって、こんなに短期間でここまでちゃんとした形を作れるようになるなんて・・・凄いじゃないか。」


 その言葉を素直に受け止め、真也しんやは嬉しそうに笑った。


 「ありがとう。実は、俺も驚いてる。さっきは指先を包むのだって難しかったから、形を作れるようになるまではかなりの時間がかかると思ったんだ。・・・だけど、やってみたらさ、少し懐かしいような感じがして、思った以上に形にすることができた。」


 「懐かしい?」


 真也しんやの言葉に、あおはわずかに視線を鋭くした。


 「あお・・・・・・?」


 頭に手を置いたまま、突然黙りこんでしまったあおに、真也しんやは不安げに声をかける。


 ハッとした様子で顔を上げたあおは、光弘みつひろの柔らかな薄茶色の髪を素知らぬふりでなでている楓乃子かのこに視線を送ると、「なるほどね。」とつぶやき、鼻から抜けるようなため息を一つついた。


 呆れた表情かおで両手を上に向けると、あおは肩をすくめて口を開く。


 「なんでもないよ。君達のあまりの成長ぶりに、感動で言葉がつまっただけだ。」


 あお海神わだつみと目くばせをし、にっかり笑って楽し気に口を開いた。


 「みんな、随分と頑張ったじゃないか。腹が減っただろう?いい店を知っているんだ。連れて行ってやるよ。・・・と、その前に。せっかくだから、お色直しといこうじゃないか。」


 「お前。みーくんたちをどこへ連れていくつもりだ。」


 嫌な予感以外全く感じ取ることなどできないという、あからさまな不信感を顔に張り付かせ、楓乃子かのこが口を開いた。


 「冥府だけど?・・・照射殿の石段通りの店さ。そこに、最高に旨い飯を作る友人がいるんだ。ボクがちゃんと結界をはってやるから、数時間位ならこいつらだって問題はないだろう?」


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