第267話 蒼の館 19

 嫌なことにというべきか、面倒が省けたというべきか・・・ショクや黄色の妖鬼、不気味な腕の主は、ずるずるとその繋がりを明らかにしているのだ。

 把握できている者たちが氷山の一角であったとしても不思議はない。


 黒もあおも、隠れていた者がいまさら一人くらい姿を現したところで、別段どうということも感じてはいないのだ。


 ましてや、あおにしてみれば、海神わだつみに色目をつかう不届き者の話など、口から出すのもおぞましく、本心で言えば、海神わだつみに金輪際かかわらせたくない相手でもある。


 心の内では、こっそりと後を追って始末してしまいたい衝動に駆られながら、『久遠くおんの父』という言葉を無視するわけにもいかない。

 海神わだつみを悲しませたくはないのだ。


 あおは鎖につながれた番犬のように、辛うじて推しとどまっているに過ぎなかった。


 二人の反応を待ってから、海神わだつみは続きを口にした。


 「あの男は私に用があるようだった。あれは久遠くおんの父でもある。久遠くおんに話し、今後のことを定めたい。」


 黒は小さくため息をついた。


 「海神わだつみきみは本当に真面目だ。君の横にいる青い奴は面倒がって奴を一瞬で吹き飛ばしてしまうところだったのに。久遠くおんも文句は言わないだろう。」


 「・・・・・・。」


 「・・・・・・きみの好きにしていい。僕は邪魔はしない。」


 黒の言葉に、海神わだつみは肩の力をわずかにゆるめた。


 「感謝する。」


 「ただ、僕の大切な人に手を出した時。話は変わる。そのことは覚えておいて。」


 「うん。」


 黒とは異なり、腕を組み目を伏せてこのうえなく険しい表情で二人の会話を聞いているあおからの言葉はない。


 「あお・・・・・・」


 不安げに瞳を揺らす海神わだつみに、黒は小さく微笑むと困った様子で口を開いた。


 「海神わだつみ、こいつに答えを求めるのは酷い。やめておくべきだ。」


 「どういう意味だ。」


 あおは顔を上げ、視線を鋭くして黒を見据える。

 睨みつけられた黒は、そんなことは虫の羽音ほども気にしていない様子で平然と答える。


 「自信がないんだ。きみを守りぬく。」


 あおの瞳がわずかに揺れたが、それを誤魔化すように軽口で返した。


 「まあね。君ほど強力な力があれば、何も迷わずに済むんだろうけどさ。」


 「お褒めに預かり光栄だけれど、僕が強力なのではない。君が・・・とても臆病者なんだ。」


 これにはあおも言葉を失い、怒りを纏わせた烈火のごとき視線を黒に叩きつけた。

 だが黒は、これにも全く動じる様子なく、呆れたように鼻でわらう。


 「なぜ怒る?臆病でなにが悪い?あお。君の判断は間違ってはいない。臆病になれない者に、何かを守ることなんてできはしない。」


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