第261話 蒼の館 13

 黒の言う調べたいことが何か・・・・・・。

 あお海神わだつみにも、もはやはっきりと分かっていた。


 大樹の近くに二つの世界を繋いでいる何かが存在している可能性がある・・・と黒は言っているのだ。


 何者かが命逢みお緑紅石りょくこうせきを拾い、冥府に渡ったのちに石を手放したのでないとすれば・・・石が足をはやし、一人旅よろしく冥府へ渡ったことになってしまう。


 「黒。きみはこのまま寝ていろ。調べたいことはわかった。ボクと海神わだつみで行く。」


 あおの言葉に、黒はふんっと短く鼻から息を吐き、そっぽを向いた。


 「しなくていい。きみ海神わだつみと共にすべきことがあるはず。・・・ボクの方に、つてがある。調べがついたら声をかける。」


 「つてが?・・・きみに?」


 「あお・・・・・・きみ。そんなに僕に遊んで欲しいのか。」


 あおが信じられないと本音をもらすと、黒は視線を鋭くし、あおを思う存分睨みつけた。


 だが、その瞳は子犬がじゃれ合うような無邪気さをただよわせるばかりで、みじんも殺気が含まれてはいない。


 海神わだつみが小さくため息をつき、あおの腕にそっと触れてたしなめると、全く悪びれた様子のないあおは屈託のない笑顔を見せ、海神わだつみの頭を抱き寄せながら、頭をかいた。


 「命の保証があるのなら、君と思う存分遊んでみるのも悪くはないけどね。・・・すまない。今のきみは完全なはぐれ者だとばかり思っていたから、素直に驚いただけだ。他意はないよ。」


 あおが言うと、黒は不機嫌そうに鼻で笑った。


 少し幼い仕草はどうやら照れ隠しでもあったのだと、続いて彼の口から紡がれた言葉が教えてくれる。


 「君達は名づけを行うんじゃないのか。些事に構う必要はない。」


 つまり黒は、この問題を自分に預け、あお海神わだつみは名づけに専念しろと言っているのだ。


 「・・・伝えそびれるところだったけど、名づけを行うのならば精神体ですることを勧める。強烈だが、より深く繋がることができる。君達の関係なら・・・なにも問題はないだろう。」


 黒は海神わだつみの首のあたりに目をやり、ことさら意味深げにくすりと小さく笑った。

 伝えられた黒の進言に、あおは首を傾げる。


 とろりと肩を流れ落ちていく蒼の美しい白銀の髪にくぎ付けられながら、海神わだつみは少し戸惑った様子をまとっているようだ。


 そのわずかな変化を見落とすことなく、あお海神わだつみの肩を柔らかく抱き、口を開く。


 「海神わだつみ、ボクも君と同じことが気になってる・・・・・・。黒、きみは一体どこでそういう知識を得ているんだ。」


 名づけ自体、行う者はさほど多くはないのだ。

 ましてや精神体でそれを行うなど、誰がそれを知っていて黒に伝えているというのだろうか。


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