第230話 毛むぐり 6

 「こりゃぁ、とてもじゃないけど、このままじゃダメだわ。ちょっと休憩しよう。」


 長い四肢を伸ばし草原に寝転んであっけらかんと言い放ったしょうに、俺も賛同する。


 「だな。なんかうまい手はないか、考えよう・・・・・・。」


 光弘みつひろ都古みやこもうなずきながら真剣な眼差しで腕組みしている。


 気持ちよさそうに天を仰いで、手に触れる草原を無造作になで続ける勝。

 その横に、一緒になって寝転んでみると、まるで子ウサギの毛のような草原の触り心地に、俺の口から思わず感嘆の声が漏れた。


 「なにこれっ。おいっ。光弘と都古もやってみろよ。これ、すっごい気持ちいい。」


 俺たちは並んで横になり、頬杖をついたり草原をなでたりしながら、思い思いに休息を楽しみ始めた。

 長い毛並みに顔を埋めると、ほんのり甘みを帯びたお日様の香りが鼻をくすぐり、焦っていた気持ちが丸く落ち着きを取り戻していく。


 仰向けになった光弘の胸の上でゆったりと身体を丸め、気持ちよさそうに目を細めているゆいに目を止め、俺は何気なく問いかけた。


 「癒。そういえば、さっき腕にまいてた毛むぐりは、どこへやったんだ?」


 楓乃子の腕にまきついていたはずの毛むぐりが姿を消してしまったことを不思議に思いたずねると、癒は小さな顔を上げ、はっと短く笑った。


 「真也しんや。お前、あおの話を聞いていただろう。なぜそんな馬鹿げたことを私に聞く。・・・毛むぐりは変化へんげを得意とする生き物だ。私の身体の一部に同化させているに決まってる。」


 なるほどゆいに言われよく見てみると、確かに癒の尾が4本になっている。

 随分と嫌な間違い探しだ。


 「せっかくなんだから、光弘にも仲良くさせて、いろいろ遊ばせてやれば?楽しいだろ?」


 何気なく癒の頭を撫でながら、笑顔でそう言うと、癒は不思議とよけることはなかった。

 鼻先に露骨にしわを寄せ顔を背けて、今度はふんっと鼻を鳴らしている。


 「・・・みーくんには私がすればいい。・・・こいつらは、必要ない。」


 低く小さな声でぼそぼそと紡がれた言葉に、俺と光弘は顔を見合わせ、思わず苦く笑った。


 「それよりもだ・・・。お前たち。基本は知りえているのに、なぜ力を使わない。人の身体の能力ではこいつらには追い付けるわけがない。力を使えばいいだろう。」


 「どういうこと?」


 「・・・?道具でもなんでも作り出して、捕えればいい。」


 理解しかねるといった様子できょとんと首をかしげている癒は、姿だけみればとても愛くるしい。

 だが、言っている内容はちっとも可愛くなんてなかった。


 「喉がかわいたなら、水でも飲めば?」くらいの軽い口調でゆいは言っているが、集中力も妖力も信じられないくらい使うのだ。

 指先を包むのでさえ難儀した今の俺に、おいそれとすぐにできるようなものではないだろう。


 だが・・・・・・。


 「確かに・・・ゆいの言う通りだ。・・・ありがとう。やってみる!」


 がばっと勢いをつけて起き上がった俺の隣で、ゆったりと身体を起こしながら勝が癒に問いかけた。


 「ところでさ、ゆい。・・・気づいてたのに、なんで今までそれを言ってくれなかったんだ?どうせ教えてくれるなら、遠慮しないでもっと早く、走り回るのを止めてくれてかまわなかったのに。」


 「しょう。・・・お前もおかしなことを言う男だな。・・・あおのやつが言っていただろう。焦る必要はないと。・・・私はみーくんと走り回るのも大好きなんだ。急いで止める必要が、どこにある?」

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