第229話 毛むぐり 5

 寂しさを感じ、なんとなく物悲しい気分になっている俺とは違い、こちらはハッキリとすねてしまったようで・・・。

 あおは思い切り口をとがらせ、海神わだつみ光弘みつひろのやりとりを眺めていたが、気を取り直すように口を開いた。


 「そうそう・・・言い忘れるところだったけど、毛むぐりは宿主1体に対し1体しか憑りつくことができないからな。そんでもってどういうわけか、そいつらはすでに君たちに懐いてしまったみたいだ。」


 あおが俺の手の中にいる毛むぐりを強引につまみあげると、毛むぐりはキーキーと甲高い声で鳴きながら、必死に身を捩っている。

 さらには、あおの手首に巻き付いている毛むぐりまでもがにわかに顔を上げ、ぐぅと低くうなった。


 「ご覧のとおりだ。・・・一度憑いてしまえば離れようとはしないし、他の毛むぐりも近寄ってこなくなる。他の奴の宿主ものには、興味がないんだ。」


 ふいに、話しているあおの目が細められ、眉間にわずかにしわがよった。


 不思議に思い彼の視線の先を追うと、楓乃子かのこが光弘の手首に巻き付いていた毛むぐりを、自分の腕に移らせている。


 「こっちにおいで。みーくんには私がついている。彼に君は必要ない。私のところにくればいい。」


 その顔には微笑みが浮かんでいるし口調は穏やかなのだが、目がこれっぽっちも笑っていない。

 楓乃子の腕に巻き付きなおした毛むぐりは、ぷるぷると震え、光弘の足元に寄ってきていた他の毛むぐり達は楓乃子と目が合うや否や、一目散に走り去って行った。


「君はまったく・・・大人げない奴だな。」


 呆れた表情かおで眺めながら、あおはため息まじりにつぶやいている。


 いやいや・・・どっちもどっちだろ!


 一体・・・・・・このあおという妖鬼の頭の中はどうなっているんだろうか。

 ついさっき、海神わだつみに懐きそうになった毛むぐりをひっつかんで、自分の手首に巻き付け直したことなど、すっかり忘れてしまったようだ。


 「・・・ああ、言っておくがこれは鍛錬なんだから、光弘みつひろの言霊は使うなよ。・・・・・・じゃ、ボクたちは少し離れる。」


 言うなりあお海神わだつみを連れ、あっという間に姿を消してしまった。


 ・・・・・・あおの言っていた通り、毛むぐりたちはあっという間に離れていってしまったようだ。


 先ほどと同じように気配を探ると、大分離れた場所に数匹の毛むぐりがいるのを見つけた。

 だが、さっきとは打って変わって、毛むぐりは捕まえようとすると、ものすごい速さで手の内をすり抜け、逃げていってしまう。


 かなりの時間をかけ、何度も挑戦してみたが、彼らの素早過ぎる動きに翻弄されるばかりで、まったく埒があかない。

 触れることさえできないのだ。


 結局、汗を流して追いかけまわしている間に、時間だけが過ぎてしまった。


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