第181話 命逢の朝 1
早朝。
俺たちは
清涼とした瑞々しい空気に包まれた泉の中央で、光弘がいつものように滝に打たれている。
俺たちの来訪をしった
光弘は深く息を吐き出すと、伏せていた目を上げ静かに立ち上がった。
泉から上がり、いつもとかわらぬ様子であいさつを交わして服を着る光弘の姿は、なぜか不思議と少し大人びて見えて、心の奥がざわめく。
たった数時間離れただけなのに、なぜか光弘に会えたことをとても嬉しく感じる。
同時に、大切な何かを置き去りにしたまま出かけてしまった時のように、その何かを取りに戻りたいという、得体の知れない焦燥感が湧き上がってきて、心細さが胸を埋め尽くしてくる。
「ごめん・・・・。黒のこと、黙ってたりして。」
わずかな沈黙の後、沈んだ表情で告げられた光弘の言葉に、俺たちはわざとらしくため息をつくと、苦笑して顔を見合わせた。
勝が少し意地悪そうな笑みを光弘に向ける。
「いいよ。・・・・光弘の頑固さには、もう慣れてるから。」
「言えないことまで無理に話す必要なんてない。・・・そんなことしなくても、俺たちは光弘のこと、嫌いにならないよ。・・・・お前はいつまでたっても遠慮ばっかりするんだな。」
言いながら、俺が光弘の頬をキュッとつかむと、
俺はあきれて癒を見つめた。
中身が光弘の姉の生まれ変わりと思えば・・・・これから先、一体どのように接するべきかと正直悩んでいたのだが、癒自身は今までの行動を全く変える気がないらしい。
いや。
もしかして・・・・・。
嫌な予感に口の端が思わずひきつる。
そんな俺の心情など知る由もない癒が、光弘の肩から羽ばたき、目の前で
「おい。みーくんに触れるな。私の弟だ。」
俺は嫌な勘が当たって、がっくりと肩を落とした。
姿が違うだけで、楓乃子と癒は・・・こと、光弘にかんしてだけなのかもしれないが、ほとんど人格は同じのようだ。
以前光弘に見せられたあの、過去の情景・・・・。
そこで見た楓乃子の優し気な姿は、光弘だけに向けられたものだったのだろう。
むしろ楓乃子の生まれ変わりが癒であると知られた今、人の姿で言葉を話している分、癒である時よりもさらに、光弘に対する愛情があけすけになった気さえする。
楓乃子に滝行の手伝いをお願いしたら、俺の滝の水だけ氷水にされそうだな。
そんなことを考えながら、光弘の頬から手を離しそのまま頭に手を伸ばすと、楓乃子が片眉を不機嫌そうに吊り上げている。
光弘の頭を軽く3度なでた俺は、我慢しきれず自分の胸に光弘を思い切り引き寄せた。
泉の水の透明な瑞々しさと、光弘の爽やかな清香が溶け合い、フワリと胸をくすぐる。
「光弘。もっと俺たちを信じてくれよ。・・・・お前が信じてくれるなら、俺たちは何も迷わないから。」
光弘の背をトントンと軽くたたき身体から離すと、怒ると思っていた楓乃子が涙に濡れた瞳で、ただひたすら俺たちを見つめていた。
この瞳を・・・・俺は知っている。
そんな思いとともに、昨日俺たちの頭をよぎった幻覚の話を思い出し、俺は口を開いた。
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