第180話 静かな夜 2

 冬の寒さだけが原因じゃないだろう・・・・・。

 緊張続きで気を張っていた都古の指先は震え、氷のように凍えきり乾いていた。


 「都古、寒いか?・・・・冷えちゃったよな。ちょっと待ってて。」


 俺は毛布で都古をグルグルにくるんでから立ち上がった。

 台所へ行くと、インスタントのココアを3人分カップに注ぐ。

 冷蔵庫に入っていたホイップの生クリームをひと回しずつ中に絞ると、お盆に乗せ、静かに部屋へと戻った。


 「お湯で溶かしただけだから、あんまり美味しくはないかもしれないけど・・・・寒いの少しは、楽になるだろ?」


 都古と勝にカップを渡し、自分も都古のすぐ隣に、胡坐をかいて座る。


 「ありがとう・・・。」


 都古は花開くような微笑みを見せ、小さな手でカップを大事そうに抱えた。


 「真也・・・・。お前ってやつは本当に、恐ろしい男だな。これで、自覚がないんだからたまんないよ・・・・。」


 「自覚・・・?」


 「お前には、そのままでいて欲しいなって話。・・・旨いよ、これ。ありがとう。」


 勝は笑いながらカップに口をつけた。

 意味深な勝の発言に疑問を抱きながら、俺はカップの中身を見つめた。


 ひずみから現れた不気味な手。

 ショクという名の妖鬼。

 突然現れた双凶の黒、そして・・・蒼。

 激情をむき出しにし、黒に力をぶつける白妙・・・・・。


 さっきまであれほど神経が高ぶっていたのに・・・・・。

 考えたいことも、話し合いたいことも山ほど残ったままなのに・・・・。

 急激に、頭と身体とが泥のような睡魔に支配され始め、意識がのしかかられるように重く沈められていく。


 「ごめん・・・・限界。なんか、急に凄い・・・眠い。」


 「ココア・・・・もういいのか?後は俺が片付けとくから、真也は先に寝ていいよ。もう、大丈夫だから・・・。」


 そういって、頭を撫でてきた勝の手の動きがすごく優しくて、俺はほっとして身体の力を抜いた。


 「・・・・ありがとう。・・・・勝、ごめん・・・・な。」


 勝は俺の手からカップを受け取ると、残っていたココアを飲み干し、都古の空になったカップも受け取る。


 「おーい、都古。ここで寝るなよ。お前は隣の部屋で寝なきゃ・・・・さすがに、色々まずいだろ。・・・・まさかお前、俺に布団まで運ばせる気か?」


 船をこぎ始めた都古の、柔らかな頬を軽くつねって笑っている勝の姿が、意識の外でかすれながら揺らいだ。

 勝の姿が一瞬・・・黒の姿にダブって見えた。


 「黒・・・・?」


 「ん?黒がどうした?」


 勝がいぶかし気にこちらを振り返った。

 特に変わったところはない、いつも通りの勝だった。


 気のせい、だよな・・・・・。

 強烈過ぎる眠気に、思考が混乱しているんだ・・・・。


 「気のせいだった。悪い。」


 「いいよ。・・・・真也はさ、いつも気を張りすぎなんだ。今日は俺もついてる・・・。余計なことは気にしないで、もう寝ろよ。」


 「ありがとう・・・・勝。」


 俺はもう限界だった・・・・。


 強烈な睡魔に引きずり落とされながら勝の後ろに目をやると、都古が重い瞼を無理やり薄く開け、いぶかし気な眼差しを勝へと向けているのが目に映った。

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