第182話 命逢の朝 2
「光弘・・・・お前、黒が傷だらけになっている姿や、高い塔のある景色を見たことあるか?・・・・昔の白妙の姿とか・・・・・。」
唐突な質問に、光弘が小首を傾げた。
光弘の傍らで、楓乃子がかすかに表情を強張らせている。
俺が視線をなげると、楓乃子は少し顎を上げ、生意気そうに見える表情で小さく息を吐き、視線をそらしてしまった。
「俺と勝と都古の三人が同じような光景を見たことがあったんだ。・・・・ひょっとしたら、光弘もって思ったんだけど・・・・」
光弘はあごに手を当てた。
その仕草は、何かを思い出そうとしているようにも、言うべきなのかを迷っているようにも見える。
「黒が傷だらけになっている姿は・・・・昨日。高い塔のある景色は、数年前に一度だけ見たことがある。昔の白妙の姿は思い当たるものはないよ。」
やはり、光弘もいくつか同じものを見たことがあったのか・・・・・。
「もはや偶然とはとても言えないな・・・・。4人が同じ幻覚を見るというのも、現実的じゃない。何か繋がりがあるのだろう・・・・。」
都古の言葉に、光弘は困ったように眉間にしわを寄せた。
「都古・・・高い塔の景色は俺が直接見たわけじゃない。・・・・夢の中で、黒に見せてもらったんだ。」
「黒に・・・・?」
「ああ。・・・・夢で黒が見せてくれた景色の中に、高い塔のある場所があった。高く伸びた白い塔だ。塔の周りには白い壁の家々が連なっていて、凄くきれいなところだった。・・・・あれは、恐らく俺たちの世界じゃない。」
俺は混乱して、思わず光弘に聞き返した。
「黒の記憶の中の景色を見たってことか・・・・?」
「・・・うん。」
黒の傷ついた姿を見た・・・・俺、勝、都古。
高い塔の景色を見た・・・・俺、都古、黒。
そして、白妙の過去の姿と思われるものを見た・・・・勝。
光弘は、幻覚のようなものを何も見ていないということか。
なぜ黒の名が飛び出してきたのだろう・・・・。
傷ついていた黒・・・・・光弘に高い塔の景色を見せた黒。
たったこれだけのピースを渡されただけでは、一体どんな絵が描かれているのか、見当もつかない。
ただ、このパズルのピースは同じ絵のもので、それをつなぐ者の中に黒がいるのだということだけは、ぼんやりと確認できる。
黒に聞けば、この情景が何を意味しているのか、わかるかもしれない。
だが・・・・。
「光弘。ここにきて平気だったのか?・・・・黒は?」
「うん。蒼の館で休ませてもらって、今はよくて寝てる・・・。本当はついていたいけど・・・・もっと、強くなりたいから。・・・・黒が傷つくのを見るのは、もう嫌なんだ。」
真っ白になるほど強く握りしめられた光弘の拳を、勝が静かに手に取った。
「そんなに強く握るなよ。・・・・ケガしちゃうだろ。」
勝にそっと指を開かれながら光弘が見上げると、勝は哀しそうに微笑んだ。
「黒は、光弘が傷つくのを喜ばないよ。・・・・あいつがお前を大事にしてるのに、お前が傷つけてどうする。・・・黒のことが大切ならさ、あいつが大事にしてるものを、光弘も大事にしてやれよ。」
勝の言葉に、光弘は目を見開いている。
そんな光弘の頭を軽くなでると、勝は腕を上げ身体を伸ばした。
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