第164話 宵闇の再来 3 ※R15描写有
吸い込まれそうなほどに美しく澄んだ、宵闇の揺れる瞳が、ためらいがちに近づいて来て・・・・白妙は無意識のうちにそっと目を閉じていた。
重なり合った唇から伝わる宵闇の熱が、哀しく白妙の鼓動を高鳴らせていく。
宵闇は、顔をわずかに傾け唇を重ねたまま、白妙のうなじを抑えぐっと引き寄せた。
宵闇は、もはや堪えられないというように・・・・白妙が漏らす吐息ごと全てを飲み干し、呼吸をする隙を与えないほど深く・・・甘く・・・白妙へ口づけた・・・・・。
身の内を、引き裂かれてしまいそうな程の幸福と哀しみで満たされながら、白妙はただひたすらに、彼を感じていた。
白妙の唇を、最期に小さく二度
白妙の目から涙がこぼれ落ちる・・・・・。
「お前が俺を愛してくれてたなんて、知らなかった。」
宵闇のかすれた声がポトリと地面に落ちると同時に、突然降り始めた強い雨が二人を洗い、紅い小さな川となって足元を流れ始めた。
宵闇は、白妙の凍える手の向こうにある刀へと重ねた手へ力を込め、一瞬のうちにそれを深く根元まで身の内へ刺しこみ、思い切り引き下げた。
大量の紅い色が足元を染め上げていく中、白妙は声も出せず、倒れ込む宵闇を抱き止めた。
「白妙・・・ごめんな。・・・君を、愛してしまって・・・」
白妙に身体を預け、残る全ての力で震えるその身体を抱きしめながら、宵闇は彼女の懐かしい香りを胸の奥深くに抱き、か細い声で最期につぶやいた。
・・・・・・白妙の腕の中で静かに息絶え、霧のようになって消えていく宵闇を、朦朧とする意識の中、黒は遠くに見つめていた。
やはり、自分は間に合わなかった。
全身を襲う激痛と高熱に乱れる息を抑え込みながら、黒は太い木の幹に姿を隠し、そこへもたれかかった。
白妙が宵闇を手にかけるという最悪の現実を防ぐことは、やはり叶わなかったのだ。
無力感に襲われ、脱力し天を仰いだまま動くことができなくなっていた黒は、突然の嫌な緊張感に、ピクリと身を震わせ、慌てて白妙に目を向けた。
降りしきる雨の中、白妙はついに限界を超えてしまったのだ。
宵闇を手にかけたことに耐えきれず、白妙は自分を手放し、念を放出しきろうとしている。
黒の瞳が真っ赤な光を帯びた。
黒は印を組むと、それ以上の念の放出ができないよう陣を張り、無理矢理白妙を抑え込んだ。
黒の力が集束し、白妙の身体にギュッと張り付いていく。
乱暴な手段を選ばざるを得なかったため、術の反動を喰らった白妙は、抑えつけられた衝撃でそのまま気を失ってしまった。
放出された白妙の念は、行き場を失い、雨に溶け神妖界に慈愛の雨となり降り注いでいく。
黒は、立っているのがやっとな状態の身体を引きずりながら白妙の元へ寄ると、彼女の手をにぎり、癒し始めた。
宵闇との戦闘で白妙は妖力を使ってしまっている。
このままでは過去の宵闇と同じように、深い眠りについてしまうかもしれない。
治癒の術に集中していた黒は、迂闊にも一人の人物が背後に近づいたことに、全く気づかなかった。
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