第163話 宵闇の再来 2 ※R15 少し残酷な描写など有

 白妙の刀が宵闇の首を薙ぎ払う雷光となって一直線に走ると、宵闇はそれをかすめるように、わずかに身体をのけぞらせながらかわす。


 白妙の猛追は緩むことなく、縦横無尽に刃を走らせながら、宵闇の胸を目掛け鋭く突き入れ、手首を返すと、すかさず横一線に刃を走らせた。


 宵闇は舞い踊っているようにさえ見える優雅な動きで、襲い来る全ての剣先を避け切ると、横一線に向かい来る最後の一撃を、自らの刀の鞘で受けた。


 そのまましばらく競り合うと、お互い弾かれたように間合いをとる。

 ゆっくりと闇色の刀を引き抜き鞘を投げ捨て、宵闇は眼光を鋭くした。


 「お前・・・・本気か。」


 この宵闇を野放しにはできない。

 穢れ堕ちた神妖は、欲望に果てしなく忠実で、次々と貪欲に食らいつき留まることはできないのだ。


 白妙には、分かっていた。

 本来の宵闇であれば、こんな風に荒み切った悪夢のような現実を、絶対に求めたりはしないと・・・・。


 宵闇は、自らの過ごした世界を決して見限ったりはしない。

 宵闇を失った今、例え相手が穢れ堕ちた彼自身だとしても、自分が折れてしまうわけにはいかないのだ。


 黒の妖鬼によって壊されてしまった、本来の宵闇の魂があげる悲痛な叫び声が、どこか遠くから聴こえてきたような気がした。


 「私は、この世界を守らなければならない。・・・・お前は、殺し過ぎる。神妖界の守護として、私はお前を・・・殺す。」


 「そうか・・・・。」


 宵闇は、ニヤリと嫌な笑みを浮かべた。


 「海神だけではない。・・・この世界も、お前の心を縛っているのだな。」


 そう言って一気に遠間へ逃れ、その場を去ろうとする宵闇の腕を、白妙は慌てて鞭へと変形させた武器で、即座に絡め取った。


 「どこへ行く。」


 「この世界の生みの親である、命逢みおの大樹を破壊し、神妖どもを皆殺しにしてやる。もちろん、お前の大切な海神もだ。・・・そうなれば、もはやお前を縛るものはない。お前は、俺を選ぶしかなくなる。」


 白妙は、宵闇の答えに戦慄した。


 「させない・・・・・。」


 溢れそうになる涙をこらえながら、白妙は瞬時に武器を刀へと変形させ、覚悟を決めると、そのまま宵闇を勢いよく引き寄せた。


 引き寄せられた宵闇は目を見開き、足元へ刀を落とした・・・・・。


 自分の胸倉を強く掴む白くなめらかな手。

 そして、唇に重ねられた・・・白妙の柔らかな温もり。

 同時に、焼けるような激痛が身の内を貫いていく。


 白妙は、重ねただけの唇をゆっくりと離した。


 「宵闇・・・・私も、お前を死ぬほど愛しているのに。・・・・なぜ、こんなことになった。」


 深々と突き刺された刀は宵闇の背を抜け、そこから流れ出した彼の温もりが、柄を握る白妙の、雪のように白い手を、ひたひたと侵していく。


 「白妙・・・・。やはり・・・・俺と共に逝っては、くれないんだな。」

 

 「・・・・・すまない。私はまだ・・・」


 「・・・いいよ。・・・・お前はきっと、それでいい。」


 そう言って苦痛の中見せてきた宵闇の微笑みの中に、白妙は、以前の彼の欠片を見た。

 内臓が打ち震えるほどの恐ろしさと苦しみに襲われた白妙は、思わず刀を引き抜き手を離そうとする。


 そんな自分の両手に、宵闇の手が静かに重ねられられ、白妙はビクリと身を震わせ、目を見開いた。


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