第152話 すれ違った想い
その時。
龍粋がピクリと身体をわずかに震わせ、目を見開いた。
「白妙っ。すぐに宵闇の元へもどれ!」
「龍粋?」
眉間に皺をよせ、龍粋の顔を見返した白妙だったが、次の瞬間、なぜこんなにも龍粋が慌てているのかを理解した。
建物の中に挿しこんでいた穏やかな日差しが、恐ろしいほどの陰りを見せたのだ。
「宵闇!」
慌てて水神殿の外へ出ると、強大な闇の帳が辺り一帯を支配し尽くすところだった。
闇色の布が舞い踊る様に辺りを一瞬で包み込み、陽光の侵入を阻み尽くすと、巨大な筆が空を撫でているような優雅な流れで、そこに淡い色の数々の星が描かれていく。
この帳は、間違いなく宵闇のもの・・・・・。
私が違えるはずなどない。
白妙の心臓が早鐘を打つ。
本当であれば喜びに打ち震えているはずの心に、戦慄が走った。
宵闇・・・・目覚めたのならば、なぜ帳など降ろす?
どうして、私を呼んでくれない・・・・・。
いつも白妙の心に平穏を与えてくれる帳が、真っ暗な闇となって白妙の目の前を塞ぎ、凍えそうな不安が心を締め付けてくる。
白妙はすぐさま、宵闇のいる
「龍粋っ。」
「・・・・ああ。縛られてしまっている。」
宵闇の帳は、星空のようにただ美しいだけではない。
彼の帳は強力だ。
そこに瞬く色とりどりの星は、彼の力の大きさを示している。
帳の中に捕らえた者の能力を、彼の意思で行使できないよう縛り付けることができるのだ。
・・・・・宵闇は今、帳の中にいる者の全ての能力を縛り付け、完全に失わせていた。
龍粋や長であれば、無理矢理帳を切り裂き無効にすることもできるが、そんなことをすれば、術が全て宵闇に返され、彼が深手を負うことになってしまう。
もはや八方塞がりとしか言いようがなく、龍粋といえどそこから短時間で宵闇の神殿へ向かう術は持たなかった。
白妙は胸が引き裂かれそうな不安から、水神殿を飛び出し、遠く冥神殿へ向かい駆けた。
ほどなく帳が解け、すぐに移動したが、白妙が宵闇の姿を見つけることはできなかった・・・・・。
褥が、まだほのかに彼の温もりを帯びているようで・・・・・。
わけもわからないまま、ただ宵闇がいなくなってしまったことが、狂いそうな程寂しくて・・・・・哀しくて。
彼の横たわっていた寝台に顔をうずめ、白妙は宵闇の名を喘ぐように、幾度となく呼びながら、身体を震わせむせび泣いた。
吐息交じりに囁かれる小さなその呼び声は、全身で泣き叫んでいるかのような切なさと悲壮感を伴い、聴く者を涙させた・・・・・。
どれだけ探しても、その後宵闇の欠片すら、見つけることはできなかった。
彼は闇の力を持っているうえ、彼の眷属には索敵を得意とした能力をもつ者も多い。
逆にいえば、知識と能力のどれをとってみても、姿を忍ばせることに宵闇以上に長けた者などいないのだ。
神妖界は彼を見失ったまま、更に混沌の渦に飲み込まれていくことになるのだった・・・・・。
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