第139話 宵闇の過去 4 (龍粋)
ある日唐突に・・・・神妖たちにとっては、何の前触れもなく、抗い難い絶望の暗い影が神妖界を包み込んだ。
前兆に気づいていた者はただ一人・・・・・
誰一人として太刀打ちのできる者などいないほどの強大な力を有しているにもかかわらず、神妖界の守護として常に修練を重ね続ける龍粋の姿は、精励恪勤そのものでもあり、狭い世界に生きる神妖たちを安心させる心の礎ともなっていた。
皆に癒しを与えるのが長ならば、安心を与えているのが、この龍粋という男である・・・・・。
そんな龍粋にとって、自分よりわずかながら時を遅くして生まれた白妙と宵闇の2人は、人でいう兄弟のような、かけがえのない大切な存在だ。
幼いころから屈託なく自分に絡みついてくる、自分と歳の近い2人を、心から愛おしく想っていたし、常に互いを支え合っている二人の姿は、龍粋の目にとても好ましく映っていた。
長が人の子を保護し、育て始めてから暫くたったある日・・・・・。
毎日の神事として行っている榊の占いの指し示した結果に、龍粋は独り戦慄していた。
示された未来に、自分の影を欠片も見出すことができなかったのだ。
龍粋の脳裏に、白妙と宵闇の姿が鮮明に浮かび、同時に「共に生きたい」という叫び出したいほどの強い想いが激流となって溢れ出た。
心の内では生きることを諦めるつもりはなかったが、龍粋は自分の占いが違えることのないことを、今までの経験から理解してもいた。
龍粋はその日。
誰に告げることもなく、独り
先日、命逢の大樹に気になるところがあり確認にきた際、偶然目にした幼子がどうしようもないほど気にかかっていたのだ。
その幼子は、生まれながらに並外れた妖力を持っていた。
一緒に過ごしている他の幼子たちは、正確に感じ取れないまでも、この幼子に異質なものを感じているのか、彼を追いやったり、からかったりとして仲間に入れようとせず悪さを重ねていた。
だのに、強い妖力を持つこの幼子は、その力を使って防いだり、やり返すことなどはしなかった。
そればかりか、離れて逃げていればよいものを、子供らの輪からほど近い位置に凛としてたたずみ、決して離れようとはしないのだ。
彼のその行いに子供らの残虐な好奇心は更に煽られ、ついには石などをぶつけ始めた。
この子は、妖力は強いけれども、その力の使い方を知らないのかもしれない。
身を守る力を持ちながらそれを使わない幼子の姿に、龍粋がそう結論づけていると、投げられた石が幼子の頬を傷つけ、血が流れた。
それまで耐えて見守っていた龍粋は、たまらず止めに入ろうと歩みでようとし、すぐにその足を止めた。
子供らからはまだ離れていたが、背後の枝に巨大な神妖の長い影が忍び寄ろうとしているのが見えたのだ。
神妖の中にも、質の悪い者は少なからずおり、子供を喰って妖力を上げ理性を失っているものもいる。
子供らを狙い静かに枝を伝うそいつは穢れ堕ちたそれ、そのものだった。
龍粋は眉をひそめ、それが子供たちに近寄る前に排除しようとした。
だが、龍粋よりも早く動いた者がいた。
・・・・あの、幼子だ。
彼は印を組み、小さく口を動かした。
その瞬間、枝に絡みついたそれは、赤黒い蒸気を吹き上げながら干からびていき、最期は粉になって崩れ去った。
幼子はそれを見届けると、クルリと背を向けその場から立ち去っていった。
歩み去る幼子の背に、何も気づいていない子供らの投げつける石がいくつもぶつかっていた。
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