第122話 双凶の蒼と黒

 座敷を出ると、蒼は海神と黒を連れ転移した。

 転移した先の、赤黒く深く蠢くように広がるその景色に、黒は見覚えがあった。

 冥府だ・・・・・・。


 「悪いな。屋敷の中に直接移動することもできたんだけど。それやると、三毛が凄く怒るんだよね。」


 そう言うと、蒼は海神の腰を抱き、上空に浮かぶ巨大な岩の大地へ向かい飛んだ。

 黒は表情もなく、だまったままそれに続く。


 館の門や扉は、蒼が前に立つなり、その帰りを待ちわびていたかのように次々と口を開けていった。

 屋敷の中へ入ると同時に、猫の特徴をもつ小さな少女が現れ駆け寄ってくる。


 「蒼様。お客人をお連れでしたら、お戻りの前に念話でご一報いただけると大変助かるのです・・・が・・・・。」

 「ごめんごめん。許して。」


 蒼に小言を吐きながら現れた少女だったが、蒼と海神の向こうに凛とたたずんでいる一人の青年の姿を目にし、思わずかたまってしまった。

 心なしか、ふっくらとした桃色の唇が青ざめ、震えているように見える。


 「彼は黒。・・・新しい友人だ。三毛・・・客間を1つ使う。ちょっと込み入った話になるかもしれないから、念のため人払いをよろしく。」


 蒼はそう言うと、奥まった場所にある部屋の中へと黒を案内した。

 ドアを閉めると同時に、蒼は印を組み部屋の囲いを強化する。


 「失礼。」


 黒は印を組むと蒼の囲いの上から、さらにもう一つ囲いを乗せた。


 「時間が惜しい。僕はあの人と、離れていたくはないんだ。・・・・・要件を聞こう。」

 

 黒が乗せた結界は時間をとどめておくためのものだった。

 妖力を相当量使用する上、かなり高度な術のため使える者は少ない。


 「配慮が足りなくてごめんねー。結界、どうもっ。・・・最初から気づかれちゃってたと思うけど、とりあえず自己紹介しておくよ。」


 そう言うと、蒼は神妖の姿を解き妖鬼へと正体を現した。

 瞳が海色へと変わり、白銀の髪がなびく。


 「ボクは蒼。君と共に、双凶だなんて呼ばれている妖鬼だ。」

 「妖鬼・・・ね。」


 黒は蒼の言葉に口の端で笑みを見せた。


 「僕の事は、黒でいい。・・・・・さっきは少し、驚いた。2年ほど前、海神の元に得体のしれない押しかけ従者が現れたという話は、聞いていたが・・・・・。」

 「失礼だなぁ。一体誰がそんなことを言ってるんだ。」


 蒼が口を尖らせると、黒がフッと鼻で笑った。

 

 「なかなか良い化身を作ったな。君の化身は女だと記憶していたが・・・・こっちも悪くない。それに、かなり高度な術だ。僕以外には見破れないだろう。・・・・君の正体と、海神の封印は。」

 「・・・それは、褒め言葉として受け取っておくよ。・・・やっぱり君には全部ばれちゃってたね。連れてきてよかった。」


 蒼は黒の言葉にほんの一瞬ピクリと反応を見せたが、すぐに何事もなかったようにふるまった。


 「要件というほどのものはないんだ。少し君と話してみたかった。ようやくボクにも少し分かったからね。君の強さの理由わけが。」

 「へぇ・・・・。」

 「君・・・同族以外で、つがいとしている者がいるんだろう。」


 蒼の言葉に、黒は目を細め眼光を鋭くした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る