第119話 水穂の告白 2
水穂は涙を流しながら、事故の後何が起こったのかを口にした。
「事故の直後から、私は真美の近くにずっといた。真美が一番辛いんじゃないかって思ったし、私ももう誰も失いなくなかったから。だけど・・・真美の気持ちは違ってた。・・・・・あの事故の時に真美が一緒に車に乗ってたって聞いて、私は真美にそのことを言ったの。」
水穂は悔しさをにじませた表情で、吐き出すように言った。
「真美は、何も言わなかった。だけど、その翌日から私に酷い嫌がらせや嘘をつくようになった。どうしてそんなことをするのか問いただしたら、真美は私に、『水穂がいなくなれば、事実を知る者はいなくなる。学校は私の味方だから。』って『水穂が悪役を引き受けてくれるから、自分はむしろ今の方が楽しい。感謝してる。』って・・・・・。それで私・・・・・。」
実際、学校に相談に行った水穂の両親は、教頭にお払い箱にされている。
彼女の絶望は、現実のものになってしまったんだ。
だが・・・・・。
「なぁ。事故の時真美が車に乗ってたって、どうしてわかったんだ?」
「同じバスに乗っていた男の子が、教えてくれたの。運転していた母親に、真美が無理に車を動かさせてその場から逃げさせるのが窓から見えたって・・・・・。」
「ふーん。そいつの名前は?」
「わからない。小学生だったけど、見たことのない子だったから。」
腑に落ちないまま、俺は話を進めた。
「ショクとはどうやって知り合ったの?」
「事故の直後、音楽室で個人練習をしていた時に突然入ってきたの。それからずっと私の悩みをきいてくれてた。真美の事を相談した時、彼は条件を守れるなら私の望みをかなえてくれるって言って・・・・・。最初は断ったけど、結局私は・・・・・。」
そこまで聞き終えると、黒衣の青年が低く水穂に問いかけた。
「お前、何もおかしいと思わなかったのか。」
「・・・・・。」
水穂が怪訝な表情で眉間に皺を寄せるのを見て、青年は小さくフッと息を吐いて口の端で笑った。
「なるほどね。」
海神に身を寄せるようにして立っている青い衣の青年もそう言うと、同じ様に笑って肩をすくめた。
「なにがおかしくて、なにがなるほどなんだ?」
蒼はニヤリと綺麗な顔に笑みを浮かべ、説明を始めた。
「まず、バスに乗っていた少年。これ、明らかにおかしいでしょ。」
蒼は行儀悪く机に頬杖をついた。
「見た事ない子供だったんだろ?それがなぜ、知り合いでもないこの娘にそんな話を突然するんだ?それに・・・・どんな方法を使えば、ただの人の子がバスの中から見ていただけなのに『真美が母親に無理矢理車を出させた』なんてことがわかる?」
「確かに。」
「バスの少年にしても、ショクにしても、不自然につながっていることが多すぎるのさ。」
そう言って、蒼は水穂の額に指で触れた。
「やっぱりね。」
蒼が指を引き抜くと、蠢く細い糸のようなものが、ズルリと額から抜け出した。
俺たちは息をのんだ。
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