第115話 海神と蒼 3

 「はぁー・・・・。やっぱ止まんないのかよ。光弘、以外に頑固なんだよな。」


 そう言いながら頭を抱えたしょうは、都古みやこの空っぽの手を見て驚きの声を上げる。


 「都古!お前、水穂の魂入ったやつは!?」

 「そんな・・・・確かに持っていたのに・・・・・。」


 都古自身も驚いた顔で勝と顔を見合わせた。

 光弘みつひろが消えると同時に水穂の魂が消えたということは、光弘はそれを持って彼女の本体へと向かったのだろう。


 「俺たちも行こう。」

 「だな!」

 「まぁ待て。」


 光弘の後を追い、急いで水穂の元へ転移しようとした俺たちを、海神わだつみの横で音楽室の少女を抱きかかえていた青い衣の青年が、止めた。


 「必要ない。我々は彼らの帰りを待てばいい。何も心配はいらないよ。」


 彼のその発言に、俺たちは疑問の表情を浮かべる。

 ふと冷静になって辺りを見回せば、その場から姿を消したのが光弘だけではないことに気づいた。


 黒衣の美しい青年と癒も、そろって消えていたのだ。

 俺はそれを横目で確認しながら、青い衣の青年に問いかけた。


 「どういう意味ですか。どうして心配ないと言い切れるんですか。」


 俺の質問に、青い衣の青年は面白そうに口の端を上げて笑った。


 「さっきそこにいたのは、黒の奴だろ。あいつがそこにあった魂の石を持って光弘という子供の後を追った・・・悪意も感じない。ということはだ、どういう関係かは知らないが、十中八九、あいつはあの光弘という子供のために後を追って行ったんだろう。」


 青い衣の青年はそう言いながら、海神わだつみの髪についた小さな葉をつまんで捨てると、艶やかになびく海神の黒髪を手で優しくすいて整えてやっている。


 「だから、何も心配はないのさ。むしろ、あいつで手に余るような事は、もはやこの天地でどうにかできるやつなんて、誰もいないっていうことを意味するんだ。お手上げだよ。・・・・だから、今はあいつにまかせて、足手まといは行くべきじゃない。」


 最後に海神の頬を手のひらで包み指でそっとなでると、青年は懐から、小さな白い球状の物を二つ取り出した。


 『浮かべ。』


 青年が柱の陰に向かい指さすと、そこに転がっていた真美がふわりと浮かんで寄ってきた。


 『納めろ。』


 青年の言葉に応じ、真美は小さな白い球の中へ吸い込まれる。

 青年は同じように、もう一方の球の中へ音楽室の少女を吸い込ませると、二つを懐へしまった。


 「この2人の事は後で解放しよう。とりあえずお茶でも飲みに行かないか?」

 「お茶?どこに?てゆーか、あんた、誰?」


 思わず勝が問いかけると、青年は綺麗な顔に眩しいばかりの笑顔を浮かべて答えた。


 「ボクの名はあお。これから彼呼迷軌ひよめきへお茶にいこう。」



************************


 どろりとした黒い霧に包まれ、ショクは高く耳障りな声で笑った。


 まさか、海神に会えるなんて思わなかった。

 今日は最高にツイてる。

 それに・・・・・。


 あの場にいた、人とかかわりのない者は、3体あった。

 一つは海神、もう一つはその横にいた青い衣をまとった神妖、そして最後の一つは・・・・・。

 ショクは興奮に打ち震えながら叫んだ。


 「あれは、間違いなくくろだ!双凶そうきょうの黒!最強の妖鬼!まさか、本当に存在してたなんて!」


 ショクは、最高の獲物である海神との再会と、もはや伝説ではないかと言われている黒との出会いで、転がりまわりたいほどの愉悦を感じていた。

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