第112話 真美と水穂 2
俺は、真美に向かって伸びていく赤黒い塊に向かい、手をかざした。
『
手のひらの先から炎の網が広がり、蠢く塊を包み込む。
絡みつく炎の網に抱き着かれ、蛇に似たそれはうねうねとのたうち回った。
火を消そうとしばらくもがいていたが、そのうち動かなくなり、ぶすぶすと音を立てながら、崩れ去った。
再び塊を吐き出そうと水面を妖しく蠢かせる水たまりに、今度は勝がすかさず手のひらをかざす。
『
水たまりの辺り一帯を黒い闇がドーム状に取り囲み、その中に閉じ込めた。
俺たちは顔を見合わせ、表情を険しくした。
練習以外で術を使うことがほとんど初めてだったことで緊張していたこともある。
だが、俺たちの表情を強張らせ混乱させているのは、水穂の霊の攻撃についてだった。
こんな攻撃はありえるはずがなかったのだ。
霊の根源はエネルギーの集まりのような実体のない、儚いものだ。
どんなにその想いが強くても、質量を伴う物理的な攻撃はできるはずがない。
「お前・・・・どうやってそれを出してるんだ?」
俺が思わず問いかけると、以外にも水穂から答えが返ってきた。
『契約したのよ。操れるように・・・・・』
水穂は歪んだ笑みをはりつけて言葉を続けた。
『この女に復讐するにはこれしかなかったの。だって、実際に私が真美を刺し殺したりしたら、捕まっちゃうでしょ。真美はこんなに私たちを苦しめているのに、決して罰せられることはない。学校にすらね・・・・・。それなのに私が捕まるなんて不公平だもの。』
俺は水穂のその言葉から、真美に対する彼女の恨みの深さを感じた。
「なぁ。ショクってなんなんだ?」
『ショクは手助けをしてくれる、とても良い人よ。2年前と同じ方法で真美を殺せば私の願いは叶う。だから、邪魔しないで!』
水穂が叫ぶと、水穂の身体を取り巻くどす黒い霧が真美の身体をバスの目の前へ押し出した。
癒の目が紅く煌めき、周囲の空気が波紋を描くように揺らいでいく。
波紋が触れた途端、水穂の黒い霧も、粘土を湧き出させる水たまりも、絡みつく無数の蛇も、ザラザラと崩れ去った。
水穂が血走った目で癒を睨みつけ、歯噛みする。
癒はツンと顎をあげ、見下すように水穂を見た。
足止めを食っていたバスと対向車も、蛇から解放されたことで自由を取り戻し、ゆっくりと進み始めようとしているのを見て、水穂は発狂したように鋭く叫んだ。
『そんな!だめ!約束が!!』
ちょうどそこに、バスの後後方から一台の乗用車がスピードを出したままバスを追い抜いて突っ込んできた。
その時。
音楽室の少女が飛び出し真美の身体にとり憑き、哀しみに満ちた表情で、そのまま道路へと身を投げ出した。
間に合わない!
俺の全身が恐怖に強張った。
だが、次の瞬間そこにあったのは、道路に這いつくばっている真美と、その鼻先のほんの数センチというところで止まっている車、和服のような漆黒の衣を身に着けた、美しい青年の姿だった。
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