第107話 少女の友人
亡くなった少女には、以前から仲良くしていた2人の少女がいた。
そのうちの一人が
真美は3人の中で1人だけ非常に気が強く、2人とは全く逆の派手な性格をしていた。
あとの2人がとても穏やかで優しい性格をしていたからか、3人の関係はとても良好だった。
だが、あの事故の日、全てが変わってしまった。
事故にあった少女は亡くなり、真美は彼女を殺してしまった者の子供として腫れ物に触る様に扱われ始めた。
客観的に予想すれば、真美がクラスから浮いてしまうと思うだろう。
だが、そうはならなかった。
真美は、もう一人の友人である
「2人きりになると、水穂が自分を人殺しの子供と呼んでくる。」
「お前が死ねばよかったのにと、水穂から言われ続けている。」
などなど・・・・・。
真美は周囲の友人やクラスメイトに嘘をつき、悪意のある噂を広めたのだ。
噂は人づてにあっという間に広がり、同情した友人たちは、真実を確認することもなく、真美を過剰なまでに甘やかし、逆に水穂をいじめ始めた。
こうして、水穂は2人の親友を同時に失った。
水穂が学校に近寄れるわけもなく、登校拒否をするようになった。
心を痛めた水穂の両親は、担任を通して教頭へ相談した。
教頭は水穂の両親に言った。
「真美さんは、母親が人を殺したことで、とても傷ついています。それなのに、友人であるあなた方の娘さんは、彼女の力に全くなれていなかった。彼女は自力でようやく立ち直ってがんばっているのです。彼女の痛みを考えたんですか。とても注意なんてできません。それでも彼女に何か言えとおっしゃるなら、あなた方の思いやりのなさに失望しますよ。やはり親御さんだ・・・・娘さんと同じですね。」
そう言って笑う教頭に、水穂の両親は何も言葉を返せず帰って行った。
それから現在にいたるまで、水穂は学校へは来ていない。
「亡くなった少女についての話を教頭がしたがらないのは、この話を蒸し返して欲しくないからだろうね。」
校長から話を聞いた俺たちは、胸の中をどろどろとした物が蠢くような感じを覚え、言葉を失くしていた。
「水穂さんは、その後どうなってるんですか。」
「今年私が赴任して、この話を聞いた直後に早速連絡したんだ。彼女は家からほとんど外に出たがらないそうだ。もう一度話を聞いて欲しいとお願いしているのだが、ご両親も学校に幻滅していて、ずっと断られている。」
校長には申し訳ないが、水穂の両親の気持ちが痛いほど伝わってくる。
なぜ、被害者である水穂がさらに傷つけられなければならなかったのか・・・・・。
なぜ、真美が立ち直るために、水穂独りが心を殺されなければならなかったのか・・・・・。
今回の事件との関係はわからないが、無視できるような気持ちのいい話ではなかった。
俺たちは、やりきれない気持ちで学校を後にした。
丁度最終下校の時間となり、部活を終えた他の生徒と一緒に、4人と1匹で俺たちはバスに乗り込んだ。
直後、バスの後方の異変に気付く。
彼女だ・・・・・。
もう夏休みも近いのに、濡れた冬服を身に着け、バスの最後列に静かに座っていた。
俺たちは混乱した。
音楽室に閉じ込められた少女と、バスの少女。
2人が同時に存在することが可能なのだろうか。
光弘が写真を取り出し、もう一度見直した。
小さい顔写真なのではっきりとは見えないが、やはり彼女に見える。
ただ、音楽室で会った彼女より、この少女は髪が大分長く、少し大人びて見えた。
一体、どういうことなのだろう。
考えを巡らせている間に、バスは目的地へ到着した。
彼女は静かにバスを降りて行った。
俺たちがバスから降りると、彼女の姿はすでにそこにはなかった。
彼女の降り立った場所に残る小さな水たまりを、癒が目を細めてみつめている。
これ以上この場所で得られるものもなさそうなので、俺たちはそのまま彼女の家に向かい歩き始めた。
彼女の家の前で表札を眺めていると、ちょうどそこに中年の女性が買い物から帰ってきた。
「うちになにか?」
「すみません。僕たち、娘さんに小学校のころよく近くで遊んでもらって・・・。さっき話していたら懐かしくなって思わずここまで来てしまったんです。」
「そうですか。」
女性は疲れた様子だったが、優しく微笑み、僕たちを家の中へ誘った。
「喜ぶわ。お線香あげてもらえて。」
家に入ると、女性はそう言って俺たちにお茶とお菓子を出してくれた。
「
「水穂さんですか。」
「ええ。この子の幼馴染で、ずっと仲良くしてくれてた子なの。中学に入って吹奏楽部でがんばろうって話してたんだけどね・・・・・。」
女性は俺たちに写真をみせてくれた。
少女が楽しそうに手を繋いで写っているその写真を見て、俺たちは目を見開いた。
入学式にとったものだろうか。
笑顔の2人は同じ顔をしていた。
「そっくりだな・・・・・。」
思わずつぶやいた勝の言葉に、女性は嬉しそうに声を少し高くした。
「でしょう?双子じゃないかった思うくらい、よく似てたのよ。2人とも面白がって、髪型を同じにしたり、服をそろえたりして・・・・楽しそうだったわ。」
そう言って女性は寂しそうに微笑んだ。
俺たちは、女性にお礼を言って、彼女の家を後にした。
いつものように稽古場で稽古を終え、俺たちは今日の事を話していた。
何かが引っかかっている気がしてならなかった。
なにか、重要なことを見落としている気がする。
得体の知れない、嫌な感覚がぬぐえない。
そのことをみんなに告げると、3人とも深くうなずいた。
明日、真美という少女に話を聞いてみようということで話をまとめ、俺たちはすっきりしないまま帰宅した。
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