第103話 音楽室の少女 2

 放課後になると、俺たちは再び校長室をおとずれた。

 待機していた教頭に案内され、来賓用の客間へと通される。


 「で、なんで今更私に彼女の話を聞くんですか。」


 教頭は腕時計を気にしながら俺たちに問いかけた。

 俺は例の音楽室での出来事を話して聞かせた。


 「はっ・・・・私にそれを信じろというわけですか。確かに音楽室での異常現象は確認しています。ですが、彼女のことが関係あるという証拠はありません。私にはそんな少女の姿なんて見えませんでしたしね。なんでもかんでも近くで死んだ人間のせいにするなんて、ずいぶんと浅い・・・・。まぁ、子供の君たちではその程度が限界でも責められませんか。」


 俺は、勝が嫌な顔をした理由が分かった気がした。


 「私は目で見たものしか信じません。あなたがたが嘘をついている可能性だってありますからね。証拠がない以上、彼女の話を聞かせるわけにはいきませんよ。個人情報ですから。」

 「おい!そんな言い方・・・・」


 勝が教頭にくってかかろうとした瞬間、光弘が勝の手を掴んで止めた。


 「また・・・来ます。」


 光弘が短く言葉を発すると、教頭の目の前に置かれていた観葉植物が、ザワリと音を立て、一気に生い茂った。


 「ひっ・・・・。」


 後ずさって壁に背を打ち付けた教頭を残し、俺たちは光弘に続いて廊下へでた。


 俺の家の稽古場に移動すると、道着に着替えながら、勝はむすっとして口を開いた。


 「ほんとに頭にくる野郎だ。話に聞いてた以上だぜ。」

 「なんか知ってんのか?」

 「あぁ。俺のクラスの奴がちょっとな。あいつのせいで学校来れなくなってるんだ。」

 「・・・・?」


 光弘が詳しく効かせて欲しいというように勝に視線を向けた。


 「聞きたいなら話すけどさ。胸糞悪くなる話だぞ。」


 そう言って勝の口から語られた言葉は、にわかに信じられない・・・信じたくない話だった。


 **********************


 勝のクラスに、かなり芯のしっかりした男子がいる。

 ある時、その子がたまたま他のクラスのいじめの現場に遭遇したのだ。

 彼はすぐにいじめている連中を止めたが、逆上したその連中に攻撃され、けがをしてしまった。


 彼の両親は怒り、学校へ話を持ってきた。

 その時対応したのが教頭だった。


 この時教頭が彼の両親に言った言葉が酷い。


 「お宅のお子さん、思い込みが激しいようでねぇ。・・・・・息子さんが正義感出して余計なことをしなければ、こんなに表立つ案件じゃなかったんですがね。」


 もちろん、これを聞いて両親は激怒した。

 それに対し、教頭は言った。


 「まあ、冷静になりましょう。よく聞いてくださいね。騒げば"内心点"が大変なことになりますよ。こんなことでいちいち騒ぎを起こすようなお子さんを入学させたいと思う高校・・・・あるといいですが。」


 両親は絶句した。

 彼は次の日から、学校に来なくなった。


**********************


 話を聞き終えた光弘の表情の険しさが、全てを物語っていた。


 「本当に胸糞の悪い話だな。」


 いつの間に着替えを終えたのか、勝の後ろで話を聞いていた都古が顔をしかめた。


 「だろ。俺も本人にしか話聞いてないから、実際の教頭はどんな人物なんだろって、気になってたんだけど、これが気持ちいいほどの・・・・・。」

 「クズだな。」

 「そう、クズ・・・・・って。白妙しろたえ!?」


 着替え終え、準備運動をしていた勝の目の前に、突然白妙が現れた。

 白妙は、勝の首に腕を回した。


 「おや。また背が伸びたのではないか?」

 「いや。そんな一日で伸びないって。昨日も会ったでしょ。」


 勝は苦笑しながら、白妙の頭を優しくなでた。


 相変わらずやんちゃな感じが抜けない勝だが、白妙といる時だけはなぜか大人びて見える。

 逆に、普段大人びている白妙が勝の前では子供じみて見えるのが不思議だ。


 「今回の依頼、少しいつもと違うようだから、様子を見に来た。やはり難儀しているようだな。まぁ、ゆいがいるのだから、危険はないだろうが。」


 白妙がそう言うと、癒が光弘の肩の上で当然、とばかりに生意気そうに顎を上げた。

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