第102話 音楽室の少女 1

 彼呼迷軌ひよめきに戻った俺たちは、座敷で翡翠ひすいが用意してくれたお茶菓子をつまみながら、白妙しろたえ久遠くおんに相談していた。


 「ひずみを回収するだけならあの場で終わることができたんです。でも、彼呼迷軌が言ってた『現象の終息』っていうのが気になって・・・・・。」

 「恐らく、ひずみに巻き込まれて、あの女子生徒は音楽室に閉じ込められたのだと思います。ただ、閉じ込められていることに対して怒っているにしては、彼女の怒りは想いが深すぎる。ひずみを回収してあの部屋から解放してしまえば、彼女がどう動くのかわからない。まずは彼女の怒りを鎮めるべきではないでしょうか。」


 俺と光弘の話を聞いていた白妙は、満足そうに笑みを見せた。


 「お前たちの成長ぶりは、本当に眩しいばかりだ。その読み通りで間違いなかろう。」

 「まずは、その少女の正体を探し出さねばならないだろう。今回の依頼、君たちが負うには少し荷が重いかもしれない。」


 久遠の心配そうな視線を真っ直ぐ受け、俺は答えた。


 「俺も同じように感じました。でも、彼呼迷軌が俺たちにも念話を送ってきたということは、できないことではないと判断したからだと思うんです。相談と報告はマメにするんで、俺たちにやれるところまで任せてもらえないですか。」


 俺の言葉に、翡翠がいつもの綺麗な笑顔で口を開いた。


 「危ないことは無しですよ。」

 「何かあれば、すぐに呼ぶんだ。」

 「癒。頼んだぞ。」


 白妙の言葉に、癒は「言われなくても分かっている」というように、生意気そうにうなずいた。


 **********************


 俺と光弘は、毎日の日課である剣道の稽古のため、俺の家の稽古場にやってきた。


 俺たちの中学校には残念ながら剣道部がなかったため、4人とも部活には入らなかった。

 その代わり、毎日命逢みおでの修行の合間に、ここに来て稽古をしているのだ。


 基本練習を繰り返していたところへ、勝と都古がやってきた。

 俺たちは稽古を中断し、今日あった校長からの依頼について話して聞かせた。


 「ふーん。つまり、音楽室のひずみを先に回収しちゃうと、中に閉じ込められてる少女のことも解放することになっちゃうってことか。」

 「ああ。ひずみの渦の形が、音楽室の中へ向かっていたから。そのせいであの場所に閉じ込めれれているんだろう。」

 「そんなに怒っているのか?その少女は。」

 「めちゃめちゃ怒ってたよ。とりあえず今の制服を着てたから在校生の中に該当者がいるはずなんだ。」


 俺たちの中学は、俺たちが入学する1年前に制服のデザインを新しくしたばかりだった。

 つまり、彼女のてがかりは在校生の中にあるはず。


 明日、学校で校長に確認してみようということで話がまとまり、俺たちは4人で稽古を再開した。


 翌日、少し早めに登校した俺たちは、校長室へと向かった。

 ノックをして部屋に入ると、4人に増えた俺たちを見て、校長が苦笑した。


 「まさか、本校の生徒の中に、執護あざねが4人もいるとは。光栄だね。それで、なにかあったのかな。」

 「校長先生。昨日お願いした情報提供の件ですが、在校生の中で在学中に亡くなった生徒や、入院中の生徒がいれば教えて欲しいんです。」

 「本校在学中に・・・・か。一人だけ思い当たる子がいる。私が来る前の話だから、教頭の方が詳しいだろう。話を通しておくから、後で直接聞いてみるか?」

 「お願いします。放課後もう一度こちらへうかがいます。」

 「わかった。」


校長室を出ると、勝が顔をしかめた。


 「うぇー。俺、あの教頭苦手なんだよな。」

 「なんだ。勝にしては珍しいな。自分からそんなことを言うなんて。」


 都古が驚いた表情で問いかけると、勝はうーんとうなったまま黙り込んでしまった。


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