第101話 2年後 2
一緒に鍛錬を行うようになってわかったが、滝行はかなり精神的な能力を持ち上げてくれた。
冷たい水に打たれながら、それにとらわれないよう神経を研ぎ澄ませ、時間をかけ、息を身体の中が空っぽになるまで深く深く吐き出す。
滝行を繰り返す度、閉じられていた新しい感覚が開かれ、世界の見え方が少しずつ変わってきたのだ。
泉から出ると、俺たちは服を着た。
ここの水は不思議と、身体からすべて綺麗に滑り落ちてしまうので、濡れた身体を拭く必要がないのはありがたかった。
準備を終えると同時に、俺と
『
最近は、複雑な術式が必要になるようなもの以外は、俺たちにも直接依頼の念話が伝えられるようになった。
誠真中学校の来栖茂というのは、俺たちの学校の校長先生だ。
俺と光弘は視線を交わし、うなずき合う。
『今の依頼、俺と光弘が行きます。』
俺が、念話でみんなに伝え終えると、光弘は
風が頬を撫で、目に映る景色が溶けるように歪んだ次の瞬間、俺たちは学校の昇降口に立っていた。
「ありがとう。」
俺は光弘に礼を言った。
光弘は嬉しそうに目を細め、俺の手を離した。
一体どれだけの鍛錬をしたのかわからないが、光弘は彼呼迷軌から与えられる簡単な術ならば、今のように言霊無しに使えるようになっていた。
系統の妖力がない光弘は、彼呼迷軌から与えられる能力と、自身が元から持っている言霊の力以外は使えない。
それでも持ち前の頭の回転の速さや、柔軟さ、身体能力の高さで、圧倒的なまでの力を身につけていた。
「にしても、現象の終息ってなんだろな。今回の依頼って、ひずみの回収じゃないのか?」
俺の問いかけに、光弘も同じ意見だというようにうなずいた。
校長室の扉をノックすると、「どうぞ」と落ち着いた低い声が返ってきた。
「おや。どうしました?」
俺たちが中に入ると、校長は微笑んで問いかけてきた。
まさか俺たちが自分の依頼を受けてやってきた者だとは思っていないのだろう。
「校長先生。俺たち、
俺がそう伝えると、校長は一瞬驚いた顔をして、真剣な眼差しで俺たちを見返してきた。
校長は小さくため息をついてから口を開いた。
「まさか君たちが例の執護だとは・・・。驚いたよ。とにかく、一度みてもらいたいのだが・・・・。」
そう言って、校長は俺たちを音楽室へと案内した。
音楽室出入口の二重扉を通る時、校長がドアを空けながら俺たちに声をかけた。
「暗いから気をつけて。今週ここで2人も転んでケガをしたんだ。今日は部活は休みにしてもらったから誰もいない。入ってくれ。」
癒が耳をピクリと動かし、目を細めた。
「実は・・・・・。」
音楽室に入り、校長が口を開くと同時に、異変は起きた。
誰も触れていないピアノの鍵盤が一つ沈み、ポーンという音が響く。
最初はゆっくり、それからどんどんと速く、激しく、叩きつけるように不協和音が響く。
ピアノの音がやむと、今度は鍵付きの扉の中から、メトロノームの動くカチカチという音がいくつも重なり聞こえ始めた。
バシバシと窓や壁を叩いて回るような音がいたるところから聞こえはじめる。
机やイスが弾きとばされたようにいくつも倒れた。
校長は顔色を真っ青にして口を開いた。
「見ての通りだ。」
俺と光弘は顔を見合わせうなずき合った。
校長には見えていないようだが、俺たちの目にははっきりとその姿が映っていた。
長い髪をなびかせながら、一人の女生徒が音楽室の中を狂ったように暴れまわる姿が・・・・・・。
再び校長室へ戻り、俺は校長に状況を伝えた。
「原因は間違いなく彼女です。いつからこんなことが?」
「3日前だ。部活の最中に起きたのが最初だ。それからは誰かが音楽室に入る度に・・・・・。困って上に相談したら、執護という役の者に連絡を入れるよう指示を受けたんだよ。」
確かに、今週の音楽の授業は、なぜか体育館のステージを利用して合唱の練習だった。
俺は腕を組んで少し考えた。
もし、彼呼迷軌からの指示がひずみの回収であれば、すぐに事は終わる。
音楽室出入口の二重扉の床に小さなひずみが発生していた。
これが渦を巻き、気配に敏感な生徒の足をかけてしまったのだろう。
だが・・・・・。
光弘の顔を見ると、俺と同じように考え込んでいる。
今回の依頼は、もしかしたら簡単なものではないのかもしれない。
そう思いながら、俺は口を開いた。
「わかりました。すみませんが、少し時間をください。それから、調べたいことが出てくると思います。秘密は守るのでその時は協力をお願いします。」
「もちろんだ。必要なものがあれば言ってくれ。よろしく頼む。」
俺たちは学校を後にし、
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