第60話 屋台散策 4

 エビが消えた水面を眺めていた俺は、頭を振った。


 この少女の話が本当なら、エビは俺らを殺そうとしてたってことか?

 怖っ!

 もしかして、神妖って全部が全部安心できる奴ばかっじゃないってことなんじゃ・・・・・。

 今頃になって震えがきた。

 直前でサメが口を閉じ、身体を逸らしたからギリギリ大丈夫だったけど、下手したら今頃しょうは完全にサメの腹の中だったかもしれないってことかよ・・・・・。


 青い顔をしている俺たちに、少女は深々と頭を下げた。


 「わだつみに代わりもてなすはずが、本当にすまなかった。私はみずは。ここにいる間は私が責任をもってそなたらを守る。びのたしにもなるまいが、どうか馳走させてくれ。」


 そうは言われても、さすがにもう釣り堀に近づく気にはなれない。

 みずははそんな俺たちを釣り堀から離れたテーブル席へと案内すると、神妖たちに海の幸をこれでもかというくらい運ばせ始めた。


 「勝よ。お前には本当に可哀そうなことをした。私が守るから安心してくれ。」


 「サンキューな、みずは。さすがにビビったけど・・・・もう平気だ。心配すんな。」


 表情はとぼしいが、舌足らずな口調で自分を心配し声をかけてくれるみずはの様子に、勝はいつも通りの調子で返した。


 しばらくすると、俺たちが釣ったエビが、丁寧に串を打たれ塩がふられた状態で運ばれてきた。

 俺たちはさっそく、とれたての新鮮なエビを炭火であぶり始める。


 網に乗せると、ジュァッ!っという音と共に、ものすごく香ばしい香りが立ち上った。


 「くーっ!めちゃくちゃ美味そうっ!」

 「この匂い!たまらん・・・・・。」


 エビが焼けるのを待っている俺たちの元へ、今度は神妖が飲み物を持ってきてくれた。


 都古が渡されたのは、薄紅色で下にいくほど濃い紅色にグラデーションしている可愛らしい飲み物。

 ストローの隣に、ブルーベリーや木の実を刺した串が添えられている。


 光弘は、黄緑と水色の中間くらいの、南国の海みたいな色の飲み物。

 表面は透明なゼリーが浮いていて、涼やかなイメージだ。

 これには、見たことのない真っ青な花が一輪添えられている。


 俺が渡されたのは、全体がオレンジの飲み物。

 ミントに似た葉っぱが飾られている。

 だが、普通の飲み物ではないことは、一見して明らかだった。

 ・・・・・何かが、中で光っているんだ。

 グラスの底の方が、ぼんやり光を放っては消え、消えては光りを繰り返している。


 最後に勝に配られたのは、以外なことによく見るタイプのクリームソーダだった。

 ところがこれが、とにかくでかい。

 勝の顔が入りそうなくらいでっかいビールジョッキに入っているのだ。

 中に1つだけ入っているサクランボの、あまりに不釣り合いなサイズ感に、ちょっと物悲しい感じすら受ける。


 「なんてこった!俺の大好きなサクランボが、こんなにデカいソーダの中に1個って!・・・・・どうやって取るんだよ、これ。」


 突っ込むところ、そこか・・・・。


 難しい顔でサクランボとにらめっこを始めた勝だったが、何かを思いついたのか、飲み物を運んできた神妖を引き留めた。


 「そうだ、ちょっとそこの神妖さんさ、グラス一個ちょうだいよ。」

 「かしこまりました。」


 頼まれた神妖は、すぐに空のグラスを勝の元へ持ってきた。


 「こぼれるかな。結構むずいんだよな、こういうのって。」


 ブツブツ言いながら、勝は空のグラスに自分の特大ジョッキから中身を注ぎ始めた。

 スプーンでアイスをカプリとしゃくり取って、小さいグラスの中に浮かべる。

 貴重なサクランボも小さいグラスに移し替えた。


 「ほれ。これ、みずはのな。俺はストロー使わないからお前使っていいよ。」


 勝はそう言って、みずはに小さなグラスを渡した。

 みずはは目が零れ落ちそうなほどじっと勝の顔を見つめている。


 「おい、俺の顔なんか見たってなんもいいことないぜ。イケメン担当はそっちの2人だ。それより、全員分そろったし、乾杯しようぜ、カ・ン・パ・イ!」


 勝は黙っているみずはの手に無理矢理グラスを持たせると、陽気に音頭をとる。


 「イッエーイ!今日の祭にぃいいいっ!かんぱーい!」

 「カンパーイ!」

 「かんぱい!」

 「かんぱい。」


 俺たちがカンパイした瞬間、周りの神妖が息をのんだ気がしたが、細かいことは気にしないでおこう。

 勝は、みずはの手をにぎり、一緒にカンパイすると、クリームソーダをゴキュゴキュ飲んで、素っ頓狂とんきょうな声を上げた。


 「おい!おかしいぞこれ!サクランボが入ってる!」

 「サクランボは最初から入ってたろ?」

 「いやいや。さっき、みずはにあげたんだ。なのに、また入ってる。」

 「そうか、好物がもう一つ見つかってよかったじゃないか。・・・・・食え。」


 都古に軽くあしらわれ、勝はしょんぼりと肩を落としてサクランボを食べた。

 すると、食べたはずのサクランボが、また1つ中に現れたのだ。


 「ほら!なぁ、ほら!見たろ?やっぱりサクランボが入ってるんだって!」


 先ほど自分の目でサクランボが1つしかなかったのを確認してしまった以上、都古も無視できなくなったらしい。

 勝と一緒に、しげしげとジョッキの中を眺め始めた。


 その時、光弘が小さく声を上げた。

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