第58話 屋台散策 2
「すっげーいい匂い!!なぁなぁ、俺あの骨ついてる肉食いたい!」
肉の焼ける香ばしい匂いに誘われ歩き出した勝。
その先には、たくさんの骨付き肉が炭火でこんがりとあぶられていた。
「何あれ・・・・・めちゃめちゃ美味そう!!」
「だろ!?これを食わずに、いられますかっての。」
4人で屋台の店先へ行くと、中から低い声で「らっしゃいっ!」と声がかかり、可愛らしい熊のお面をつけた2メートル以上ある大男が顔を出した。
「おじさん。肉、4本ください。」
「おう!毎度!!鹿肉4本な。」
店主は注文を受けるなり、濃い紫色をしたタレを
この肉、鹿の肉なんだ。
俺、初めて食うかも。
俺たちは骨付き肉にかぶりついて、思わずうなり声をあげた。
こんがりと焼かれた肉はとても柔らかく、いくらでも噛みちぎれる。
表面に塗られたソースの甘みと肉との相性は絶妙だし、噛みしめるたびに奥の方から肉のうまみが後追いしてきて・・・・・俺たちは無言のまま、あっという間に食べきってしまった。
「う~ん!まじで美味かったぁ!肉もソースも最高!母ちゃんたちにも食わせてやりたいよ。」
俺がそんなことを言うと、熊の店主は嬉しそうに笑い声をあげた。
「ありがとうよ!鹿肉もソースも俺が用意したんだ。ソースは桑の実をジャムにして
「え!いいのっ!?」
「ほんとに!?ありがとう、おっちゃん!」
俺たちは、熊の店主にお礼を言うと、店を後にした。
ほどなくして、色とりどりの花の形をした綿あめが飾られている屋台の前で、光弘がほんの少しの間足をを止めた。
目を輝かせている光弘を見た俺たちは微笑んだ。
勝が俺と都古に目でうなずいてから、店主に声をかける。
「すんませーん。これ、4つください。」
光弘が「なんで食べたいと思っている事が分かったんだろう?」という顔をして、勝を見ている。
「光弘。お前、案外顔に出てるから。」
「そうだぞ。」
俺と都古がそう言ってからかうと、光弘は少し顔を赤くして頭を掻いた。
「この綿あめ、すごい綺麗だな。光弘の足が止まってしまったの、わかるよ。」
そう言いながら、都古が勝から受け取った綿菓子をしげしげと眺めた。
それぞれ別の色をした花の形をした綿あめは、屋台の灯りを受け澄んだ輝きを放っている。
俺たちはさっそく一口かじり、同時に顔を見合わせた。
この綿あめ、飴ではなくて綿のような氷でできているのだ。
繊細に綿の形に編み込まれた氷の糸が、口の中に入れた瞬間ほろりと甘くくずれる。
「うまっ!綿あめじゃなくて、綿氷だったのか。」
「だな。俺のはハチミツの味がする。」
「私のはみかんだ。」
「俺のはミントっぽいやつだ。ちょっとスース―して口の中が気持ちいいんだ。」
「・・・いちご。」
俺たちは、お互いの綿氷を回して食べた。
はちみつ、いちご、はっか、みかんと、色ごとに全部味が違う。
浴衣姿の物凄くきれいな女の店主が、俺たちの反応を見て、にっこりとろけるような笑みを見せた。
店主がこちらに手のひらを向けると、そこから冷気が吹いてくる。
涼しい風が肌に心地いい。
この店主は、雪女と呼ばれる者だろうか。
だとしたら、この綿氷が口に入れるまで溶けてしまわないのは、恐らくなにかしらの術がかけてあるのだろう。
「ありがとう。すごく美味しいよ。」
俺たちは雪女に礼を言うと、店を出て石のベンチへ腰かけた。
光弘は綿氷を癒にも少しずつ食べさせてあげている。
そうして俺たちが綿氷を楽しんでいると、屋台を挟んだ向こう側で、たこ焼きのようなものをつまみながら、3体の神妖が話している声が耳に入ってきた。
「いやぁ。良い
「全くだ。これだけの面々を宴のため・・・・ましてや夜祭を楽しみたいからと、帳降ろしのためだけに呼ばわることができるとは、さすが
「全くだ。他の者なら間違いなく八つ裂きにされておるわ。」
えーと。
今聞いた話からすると、さきほど夕焼け空と夜をつくってくれた神妖たちは、じつはかなり凄い奴らで、本当ならこんなことを頼めるような存在じゃないってこと・・・・・だよな。
なんていうことを俺がとりとめもなく考えている間にも神妖トリオの会話は続く。
「それにしても、夜刀五鬼神様は確かに素晴らしかったが、あれが
「おい!声が高いぞ!」
「そうだぞ!白様のお耳に入ったらどういたすつもりだ。」
「うむ。確かに軽率であったか。だが、やはり宵闇様であればお1人で、この世とは思えぬほどの見事な帳を降ろされるのだから、目にしたいと思うも仕方あるまい。」
「確かになぁ。」
よいやみ?
誰の事だ?
今の話の流れからすると、さっき5体で作っていた夜の闇をたった一人で、しかもあれ以上に見事な術をかけられる者がいるということなのだろうが・・・・・。
神妖たちの話では、どうやら白妙の前でこの名前は禁句になっているみたいだ。
神妖トリオはそこで初めて俺たちがすぐ横にいることにきづいた。
「まずいぞ。」といいながら、そそくさとその場をあとにしていく。
俺たちは、綿氷を食べながら、眉間にしわを寄せてお互いの顔を見やった。
「さっきの話、なんだったんだろうな。」
「さあな。」
「宵闇・・・・という神妖の名は、私も聞いたことがない。」
「・・・・・・。」
とりあえず、今は白妙が用意してくれた祭を心行くまで堪能することにしよう、ということになり、今聞いた神妖の話は、俺たちの記憶の彼方へと押しやられていったのだった。
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